ビットコイン現物ETFとビットコイントレジャリー企業株式
2025年12月05日
ビットコインを直接保有する ETF(※1)(ビットコイン現物 ETF)が、2024年1月10日に米国で初めてローンチされて以来、米国の州年金基金(※2)による保有状況を注視している(※3)。
米国の州年金基金のうち、資産運用専門誌「ペンション&インベストメント」が公表した‘The P&I 1,000 largest U.S. retirement funds: 2025’(※4)にランクインしているのは、130基金である(※5)。
米国の株式保有報告書にあたる「フォーム13F」(※6)によると、この130基金のうち、これまでにビットコイン現物 ETFを保有していることが判明したのは、ミシガン州退職金制度と、ウィスコンシン州投資委員会の2基金のみである。
ミシガン州退職金制度は、2024年6月末時点で初めて保有を報告(約660万ドル)して以来、着実に保有額を増やしており、2025年9月末時点では約1,141万ドル相当のビットコイン現物ETFを保有している。
これに対し、ウィスコンシン州投資委員会は、ローンチ直後の2024年3月末時点で初めて保有を報告(約1.6億ドル)し、2024年12月末時点では約3.2億ドルまで保有額を増やしたものの、それが最後の保有報告となり、2025年に入ってからはビットコイン現物ETFを保有していない。
こうしたウィスコンシン州投資委員会の動きは、一見、一部の米国州政府における「ビットコイン離れ」に合致しているかのような印象を与える。
トランプ大統領が2025年3月6日に「戦略的ビットコイン準備資産」(Strategic Bitcoin Reserve:SBR)の設置を謳う大統領令に署名して以来、一部の米国州においても、州レベルでSBRを導入するための法案が審議されている。本稿執筆時点(2025年11月27日)では、アリゾナ州、ニューハンプシャー州、テキサス州の3州において、SBR関連法案が可決されている。また、6州において9件の法案が審議過程にある。しかし、これまでに、20州において33件のSBR関連法案が否決されているのである(※7)。こうした多数の否決を指して、「ビットコイン離れ」と表現する向きがあっても不思議ではない。
もっとも、ウィスコンシン州投資委員会は、ビットコイン現物ETFがローンチされる以前から、ビットコイントレジャリー企業(※8)の株式を保有している。ビットコイントレジャリー企業として世界最大のビットコイン保有量を有するStrategy(旧MicroStrategy)の株式は、2021年3月末に初めて保有を報告(5,770ドル)して以来、急速に保有額を増やしており、2025年9月末時点では約4,422万ドル相当を保有している。
ビットコイン現物ETF保有とビットコイントレジャリー企業の株式保有は、ビットコインを直接保有することが難しい投資家にとって、ビットコインへの投資のハードルを下げる「ビットコイン関連投資」という点で、強い類似性を有している。
ウィスコンシン州投資委員会による、大手ビットコイントレジャリー企業(※9)の株式保有(2025年9月末時点)は、総額で約8.1億ドル相当にのぼる。そのため、ウィスコンシン州投資委員会がビットコイン現物ETFを手放したことをもって、「ビットコイン離れ」と判断するのは早計である。
- (※1)‘Exchange Traded Fund’の略で、上場投資信託を指す。
(※2)米国50州が所管する公的年金基金をいう。 - (※4)2025年2月10日公表。2024年9月30日時点のデータに基づく。
(※5)ニューヨーク州に関しては、ニューヨーク市が所管する公的年金基金も含めてカウントしている。
(※6)米国では、総額1億ドル以上の株式やETFを保有する機関投資家は、四半期ごとに、保有銘柄の一覧を米国証券取引委員会(SEC)に提出する義務がある(各四半期末日から45日以内)。この提出に供する報告書が、「フォーム13F」である。
(※7)なお、ウィスコンシン州にいたっては、SBR関連法案の提出もない。
(※8)保有資産の一部をビットコインに振り分ける財務戦略を用いる企業をいう。
(※9)ビットコイン保有量上位25社(BitcoinTreasuries.net参照。11月28日最終閲覧)に限定。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
- 執筆者紹介
-
ニューヨークリサーチセンター
主任研究員(NY駐在) 鈴木 利光
関連のレポート・コラム
最新のレポート・コラム
-
他市場にも波及する?スタンダード市場改革
少数株主保護や上場の責務が問われると広範に影響する可能性も
2025年12月03日
-
消費データブック(2025/12/2号)
個社データ・業界統計・JCB消費NOWから消費動向を先取り
2025年12月02日
-
「年収の壁」とされる課税最低限の引上げはどのように行うべきか
基礎控除の引上げよりも、給付付き税額控除が適切な方法
2025年12月02日
-
2025年7-9月期法人企業統計と2次QE予測
AI関連需要の高まりで大幅増益/2次QEでGDPは小幅の下方修正へ
2025年12月01日
-
ビットコイン現物ETFとビットコイントレジャリー企業株式
2025年12月05日

