「給付付き税額控除」を検討する前に

RSS

2026年03月09日

  • 調査本部 常務執行役員 リサーチ担当 鈴木 準

給付付き税額控除や食料品の消費税率ゼロを検討するための社会保障国民会議が設置され、2月26日に初回会合が開かれた。多くの人々が会議の性格や参加した顔ぶれに関心をよせているが、各政党も経済界もアカデミアも、総論として給付付き税額控除という制度の有用性については支持しているようである。

給付付き税額控除は、納税者に対して税額控除を行い、控除しきれない者や納税額がない者には給付を行うコンセプトであるため、累進税率構造の下での所得控除とは違って低所得者が有利になる仕組みを国民に提供できる。低所得者支援、就労支援、子育て支援、消費税の逆進性対応、社会保険料負担の軽減といった様々な目的に適用しうる。

ただ、これを実現するためには整理すべき論点が多い。そもそも、複雑な税制・給付制度を官僚機構が運用するのは非効率であるという新自由主義的な立場から給付付き税額控除を構想するのか、貧困対策やマクシミン原則といったリベラルな視点に立って検討するのか、拠って立つ思想や哲学の違いで制度設計の細部はかなり違ってくる。

政策目的は、就労促進、子育て支援、消費税の負担軽減、増加が続く社会保険料の補填など、いずれであるのか。それぞれの政策目的を達成するには、それぞれに対応する費用対効果の高い仕組みを考案しなければならず、万能な給付付き税額控除があるわけではない。何を目指すのかを明確にせず、中途半端な制度になってしまえば十分な効果は得られまい。

既存の税制や給付制度との関係の調整も避けられない。現在の所得税には住宅政策の一環として住宅ローンに関する税額控除が措置されているが、金利上昇局面を迎え、それはどうするのか。また最近は、「103万円の壁」への対応で所得控除である基礎控除を甚だしく、かつ、複雑に拡大させてしまった。“所得控除から税額控除へ”という考え方に逆行しているが、今度は給付付き税額控除の導入で基礎控除を縮小するのだろうか。

また、今や所得制限のない児童手当や幼児教育・保育料支援があり、いわゆる高校無償化や給食無償化も足下の国会で議論されている。それらと給付付き税額控除はどう関係するのか。給付付き税額控除をユニバーサルなものにするとしたらベーシック・インカムの考え方とも共通点が多く、失業手当や生活保護、基礎年金との整合が迫られるかもしれない。

給付付き税額控除については、自民党政権下における2007年の政府税制調査会の答申や、旧民主党政権下における2010年度の税制改正大綱で考え方や方針が公式に示された。その後、2012年に成立した税制抜本改革法において、消費税率を5%から10%へ引き上げることに伴う低所得者対策として、総合合算制度、給付付き税額控除、軽減税率の3つの選択肢の検討が法律に明記された。

経緯を踏まえれば、マイナンバー制度が普及していなかった当時には導入が難しかった給付付き税額控除は、採用された現行の軽減税率の代替であるはずという認識もいったんは必要だろう。もちろん、2012年当時と経済社会情勢は変わっているが、数十年先までを見据えた社会保障改革や社会保障に関する財源問題について、相当に骨太な検討が必須になっていることは間違いない。

このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。

鈴木 準
執筆者紹介

調査本部

常務執行役員 リサーチ担当 鈴木 準