理事長メッセージ
世界を覆う地政学リスクの暗雲は晴れることなく垂れ込めています。経済制裁によって国際経済に刻まれた亀裂が容易に埋まる兆しは見られません。世界のビジネス界にとって、経済の分断は本来望ましいことではありません。分断がこれ以上深まることを回避するためには、地政学的リスクが入り込む余地の小さい領域で協力を強化していくことが必要です。例えば、気候変動対策のように誰にとっても未来が関わる喫緊の課題については、立場を超えて一致協力できるはずです。
気候変動対策には膨大な設備投資と飛躍的な技術革新が必要になります。設備投資の判断や技術革新は、基本的に民間企業の英知に委ねるべき領域ですが、それだけでは十分ではありません。公的セクターにも大きな役割が求められます。まずは、積極的な投資を促す安定的なマクロ経済金融環境を整える必要があります。脱炭素化に向けた技術革新を誘発するためには、政府による助成や規制改革が重要です。さらには、各国の制度改正が整合的となるよう国際協調を進めることも不可欠です。
不確実性が覆う中で、気候変動対策をはじめ、各国が手を携えて挑戦しなければならない課題が山積する新しい時代を世界は迎えています。そうした局面だからこそ、自由貿易と多国間アプローチを重視してきた日本の政府や企業が果たせる役割は大きいものがあります。そうした中でシンクタンクが貢献できる領域も広がっていると思います。民間企業が的確な投資判断をするためには、正確なマクロ経済金融情勢の分析が必要です。政府が適切な規制緩和や国際的に整合的な制度改正を行うためには、それらが経済に及ぼす影響調査や諸外国の制度に関する情報蓄積が欠かせません。そうした調査分析力や情報収集力を活かした客観的立場から政策提言を行うことができるのがシンクタンクであると思います。
日本経済は、今、1990年代のバブル崩壊後、金融危機やデフレと、まるで終わることのないように続いてきた長い試練を抜け出し持続的成長経路へ戻ろうとしています。この動きを確かなものとし、希望の持てる未来を拓く視点を提供していかなければなりません。新しい時代、新しい局面を迎えシンクタンクに求められるのは、冷静な分析力、未知に対する好奇心、粘り強い調査力、時代を先取りした洞察力、既存の範疇にとらわれない自由な発想力、そして何よりも社会貢献に向けた熱意です。大和総研には、長い歴史の中で、IT、コンサルティングとともに、シンクタンクとして蓄積されてきたノウハウと情報があります。多様な人財が社内で、あるいは官公庁等への出向機会などを通じて日々研鑽を重ねています。個々の力を発揮できる領域、あるいは組織として貢献が期待される分野はかつてなく広がっています。着実に成果を重ねながら、グローバルステージで存在感のある日本のシンクタンクを目指したいと考えています。
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