退職給付の積立超過 投資家に説明できるのか?

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2026年09月30日

  • データアナリティクス部 主席コンサルタント 市川 貴規

本年7月に公表されたコーポレートガバナンス・コード改訂版では、中長期的な企業価値向上に向けて、経営資源を適切に配分することの重要性が改めて示された。とりわけ、現預金や政策保有株式などの金融資産が、成長投資や株主還元などに有効活用されているかについて、投資家の関心は一段と高まっている。

この観点で見落とされがちなのが、確定給付企業年金制度(以下、DB年金制度)の年金資産や退職給付信託である。昨今の株式市場の好調を背景に、これらの時価評価額は大きく増加している。一方、長期金利の上昇により、退職給付債務(PBO)は相対的に小さく評価される傾向にある。その結果、年金資産がPBOを上回る「積立超過」の状態にある企業が増加している。

DB年金制度の運営においては、従業員に約束した給付を確実に行うという受給権保護の考え方が根底にある。したがって、将来の積立不足に備え、リスク対応掛金(※1)などの拠出により一定のバッファーを確保することは、制度の安定運営にとって重要であり、意義のある対応といえる。しかし、いったん外部拠出した年金資産は原則として会社に戻せないことを踏まえると、PBOや年金財政上の責任準備金を大きく上回る水準で年金資産を保有し続けることは、資本効率の観点から必ずしも合理的とはいえない。

退職給付会計上、積立不足への備えとして政策保有株式を拠出してきた退職給付信託についても、積立超過が続くなかで、その保有の合理性を株主から問われるケースもみられる。実際、積立超過の状態が継続することが見込まれ、当該超過分が退職給付に使用される見込みがないとして、退職給付信託の一部を解約し、信託財産を母体企業に返還する事例も相次いでいる。

企業経営者は、DB年金制度や退職給付信託を、単なる拠出済みの外部資産としてではなく、資本効率の観点からも点検する必要がある。まず、積立水準が適正かを確認し、積立超過が過大である場合には、掛金の抑制や給付改善などを通じて、従業員への投資、すなわち人的資本投資につなげる余地がないかを検討すべきである。あわせて、退職給付信託の一部解約や返還により生じる資金を成長投資に活用できる可能性も視野に入れる必要がある。重要なのは、受給権保護と企業経営上の資本効率とのバランスを踏まえ、どのような施策が総合的に企業価値の向上に貢献するのかを継続的に検討し、その考え方を投資家に説明できる状態にしておくことである。

(※1)将来の積立不足リスクに備えるため、通常の掛金に上乗せして拠出する掛金。確定給付企業年金制度の財政運営を安定させる目的で設定される。2017年より導入。

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市川 貴規
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データアナリティクス部

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