資本を「意識する」から「どう使うか」へ

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2026年09月18日

  • コーポレート・アドバイザリー部 コンサルタント 山本 一輝

昨年8月、「現代の企業経営はハードモードになりつつある」と題したコラム(※1)を執筆した。本稿では、その後の1年間で企業経営を取り巻く環境がどのように変化したのかを振り返りたい。

東京証券取引所(以下「東証」という。)は2026年4月28日、「資本コストや株価を意識した経営」に関する要請のアップデート(※2)を公表した。同要請は2023年3月から行われているもので、これまでにプライム市場で約9割、スタンダード市場で約5割の企業が開示を行っている。東証は、資本コストや資本収益性、市場評価を意識した経営の浸透が大きく進展したと評価している。東証が挙げるポイントは4つある。「中長期的な経営方針」「資本の使い方の優先順位」「保有資産の最適性」「取締役会における議論・監督」である。一方で、期待される取り組みは企業ごとに異なり、一律の対応を求めるものではないとも述べている。これらを踏まえると、「資本コストを意識しているか」を問うフェーズから、「資本コストを意識した結果として、どのように資本を活用するのか」を問うフェーズへと、徐々に移行しつつあるといえよう。

また、生命保険協会が2026年4月に公表した「企業価値向上に向けた取り組みに関するアンケート」(※3)では、自社のROEが資本コストを上回っていると認識する企業が54.8%に達している。一方で、日本企業全体のROEが資本コストを上回っていると考える投資家は2.5%にとどまっており、設問の対象は異なるものの、企業側と投資家側で見解が異なっているものと思われる。加えて手元資金の水準についても認識の差は大きい。企業側の68.9%が「適正な水準」と回答しているのに対し、投資家側の79.5%は「余裕のある水準」と認識している。資本収益性と手元資金の双方について、企業と投資家の間には依然として大きなギャップが存在している。この背景には、資本コストの推計方法や前提条件の違いに加え、リスクに備える時間軸の相違によって、必要な手元資金の水準そのものが異なっていることが考えられる。もっとも、どちらの認識が正しいかを一概に論じることは難しい。重要なのは、企業と投資家の双方がこうした認識のギャップを埋める努力を重ねていくことであろう。そのためには、企業側にはより充実した情報開示が求められる一方で、投資家側にも企業の開示内容に対する理解を深める姿勢が必要である。また、両者を支援するアドバイザーや市場関係者にも、企業の開示内容を投資家に理解しやすい形で伝え、投資家の関心の所在を企業に還元するという、橋渡し役としての役割が期待される。

さらに、経済産業省は2026年7月21日、「成長投資ガイダンス」(※4)を公表した。同ガイダンスでは、EP(Economic Profit)(※5)を企業と投資家の共通言語として、資本コストを上回る事業へ資本を積極的に配分することを推奨している。加えて、投資家には、企業の成長ステージや事業特性に応じた対応を期待している点も注目される。最適な資本の配分は、言うは易く行うは難しであろう。しかしながら、株価や資本コスト同様、積極的に資本の配分に目を向ける企業が増え、議論の深まりも期待される。

ここ数年、企業が開示内容を充実させ、投資家との認識の隔たりを解消しようとする動きが続いてきた。こうした流れはさらに進み、市場が求める資本コストと自社の資本収益性を比較するフェーズから、限られた経営資源を資本コストを踏まえながら何に、どの順序で配分するのかを説明するフェーズへと移行しつつある。それに呼応するように、投資家側も企業側の開示を基に理解を深めようと歩み寄ることは、限られた経営資源の使いみちをめぐる建設的な対話へと進む足掛かりとなるのではないだろうか。

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コンサルタント 山本 一輝