ハードモードになりつつある現代の企業経営
2025年08月20日
2025年8月、日経平均株価やTOPIXは最高値を更新した。要因は様々あるが、その一つにエンゲージメントを通じて企業に高い期待を伝える投資家と、期待に何とかして応えようとする企業の存在がある。
近年、取引所はコーポレートガバナンス・コード(CGコード)の策定や、企業に対して資本コストや株価を意識した経営の要請を行っている。加えて、2025年の4月には経済産業省から「稼ぐ力」のCGガイダンスも公表された。それらを追い風として、機関投資家による企業へのエンゲージメントが活発化するようになった。アクティビストと呼ばれる投資家たちによる活動の隆盛は、その象徴的な光景であろう。その結果、機関投資家などは企業側へ期待する成果や条件をより明確に伝えるようになり、企業側はそれらをより強く意識しながら事業運営に取り組む必要性が生じた。
上記の流れの中で広まった考え方の一つに、資本コストがある。資本コストとは、「企業の資金調達に伴う費用のこと(※1)」であり、株主側にとっては自らの投資先に対して期待する利回りとなる(株主資本コスト)。この場合、投資した金額に対してどの程度利益が出ているかとも捉えられるため、ROEがわかりやすい目安となる。ROEは自己資本利益率、つまり自己資本(投資した金額)に対してどの程度収益を上げているのかを示す指標であり、企業経営の効率性を示す。そのため、最近では企業の経営目標としてROEを重視する企業および投資家は多い(※2)。
当社の調査によると、東証プライム企業などの当期純利益および株主資本等の金額は、2014年から2023年までの10年間でそれぞれ93%、65%増加しているとのことである(※3) 。したがってROEは分子・分母共に増加しているが、分子の伸びがより大きいため8.0%から9.3%に上昇している。
一方で、投資家が企業に期待する資本コストの水準はそれ以上に上昇している。企業側が求められるROEの水準感は、2014年頃は5%程度であったが、その後8%程度まで引き上がり、近年では10%もしくはそれ以上の水準となっている。また、経営トップの取締役選任議案では、議決権行使基準として一定以上のROE達成を設定する機関投資家も見受けられる。
企業側のROEに対する認識も変化しつつあり、より高い目線を持つ企業も見受けられるようになった。例えば、直近ではトヨタが決算説明会の中で、目安となるROEの水準を20%と回答している。これはグローバル優良企業相手である場合は、投資家の期待水準がさらに上昇していることの表れであろう(※4)。
このように現代の企業経営では、高い水準での成果を投資家から期待され、仮に一定水準を下回る業績が続くと容赦なく経営陣の続投にNOを突き付けられる。この流れの中で、現代の企業経営は難易度が一層上昇しているといえるだろう。
- (※2)一般社団法人 生命保険協会「企業価値向上に向けた取り組みに関するアンケート集計結果一覧(2024年度版)」(2025年4月18日)においては回答した投資家の88.2%および企業の78.6%が経営目標としてROEを重視することが望ましいと答えている。
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コーポレート・アドバイザリー部
コンサルタント 山本 一輝