Truth API:トランプ大統領、自身のSNS発言への高速アクセスを販売する前代未聞の実験
2026年09月04日
大統領権限の境界を押し広げてきたトランプ大統領が、またも前代未聞の領域に踏み込んだ。Trump Media & Technology Group(TMTG)は7月16日、同社設立のSNSであるTruth Socialの有力アカウントの投稿を、契約者へミリ秒単位で届ける‘Truth API’を発表した(8月1日稼働開始)。24時間365日の機械可読フィードで、初期の想定顧客は高頻度・アルゴリズム取引会社だという。
Truth Socialは、もはや単なる政治メディアではない。トランプ大統領の投稿は、経済統計や中央銀行発表にも似た市場イベントとなっている。2025年4月7日、「中国が34%の報復関税を撤回しなければ50%の追加関税を課す」と投稿すると、米国株式の先物と暗号資産の価格が下落した。2日後には「今は絶好の買い時だ」と投稿し、その約4時間後、多くの国への上乗せ関税を90日間停止すると発表した。これを受けて、S&P500は同日終値で9.5%上昇し、ナスダック総合指数は12.2%高となった。トランプ大統領によるTruth Socialの投稿が、政策情報であると同時に巨大な売買シグナルとなった象徴的な事例である。
Truth APIの料金は、報道によれば月額最大10万ドルである。契約顧客数は、8月24日時点で「10社台半ば」になったという。TMTGのマガーン暫定CEOは、同日のCNBCインタビューで、「Truth APIが契約者に約50ミリ秒の速度優位を与える」と説明した。投稿を人間が読み終える前にシステムが関税、制裁、軍事行動などの重要情報を抽出し、株式、国債、為替、原油、暗号資産の注文へ接続できれば、たとえ50ミリ秒であっても明確な経済的価値が生じる。
公開情報の高速配信自体は、金融市場では珍しくない。しかし、Truth APIには、情報を生み出す現職大統領と、その情報配信速度を商品化する企業の利益が重なるという特殊性がある。TMTG株の約41%は、トランプ大統領だけが利益を受け、本人が撤回できる信託を通じて保有されている。私企業のSNSが事実上の「大統領記者室」となり、公的な政策発信の速度価値が同社の収益へ還流する。現職大統領によるこうした「ビジネスモデル」は、先例がない。
議会では、Truth APIの稼働開始前後にかけて、上院議員らが証券取引委員会(SEC)に調査を要請し、政府高官の市場重要情報への有料高速アクセスを規制する複数の法案も提出された。8月12日には非営利報道機関のThe Interceptと非営利団体Freedom of the Press Foundationがトランプ大統領等を提訴し、「月額最大10万ドルを支払える者に大統領の公式発表への実質的優位を与える仕組みは、憲法修正第1条が保障する大統領発言への平等な公的アクセスに反する」と主張した。
これに対し、マガーン暫定CEOは「市場からの需要に応えた」と反論し、「公開データを商用APIで高速配信するのは確立された慣行だ」と説明する。実際に、Truth APIが一般公開前の秘密情報を販売しているとは確認されていない。しかし、同氏自身が認めた約50ミリ秒の優位は、形式上は公開情報でも、市場では有料の時間格差として価値を持つ。同氏は、Truth APIを「Wall StreetからMain Streetへ広げたい」と説明している。これは、機関投資家向け高速フィードとして始めたサービスを、個人向け証券会社や一般的な情報サービスにも組み込み、顧客基盤を拡大する構想といえる。
Truth APIは、データ配信事業であると同時に、公権力と私益の境界を大統領自ら押し広げる、前代未聞の政治的実験である。
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- 執筆者紹介
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ニューヨークリサーチセンター
主任研究員(NY駐在) 鈴木 利光
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