「個人向け国債」見直しで家計の行動はどう変わる?:欧州で起きた「家計資金の大移動」からの示唆
2026年08月24日
個人向け国債の商品性見直しに向けた検討を政府が進めている。個人向け国債の商品性や制度面での魅力が高まれば、家計の資金が国債へ向かう可能性も高まる。一方、その資金がどこから流入するかによっては、銀行の預金調達コスト上昇や金融機関の預かり資産ビジネスに影響が及びうる。こうした点を考える上で、近年、個人向け国債の販売を積極化したイタリアとベルギーの事例は参考になる。
イタリアでは、2023年6月に個人向け国債「BTP Valore」が初めて発行され、182億ユーロを集めた。保有期間に応じて利率が高まる仕組みや、満期保有者への追加的なプレミアムを設けたことで人気を集め、国債残高に占める個人の保有割合は上昇した。2023年4~6月期の家計の資金フローをみると、現金・預金が247億ユーロ減少し、株式・投資信託も90億ユーロ減少した(左図参照)。金融引き締めによる金利上昇の影響も含まれるため、全てがBTP Valoreの影響とはいえないものの、国債への資金シフトが預金や資産運用商品との競合を強めたとの指摘もある(※1)。
家計の資金フローの変化が顕著な事例はベルギーである。2023年9月、ベルギー政府は表面利率が高い1年物の個人向け国債を発行し、調達額は219億ユーロに達した(※2)。2023年7~9月期の家計の資金フローをみると、起債直前から預金金利は上昇したものの、現金・預金から254億ユーロもの資金が流出している(中央図参照)。一方、株式・投資信託からは資金流出は生じなかった。興味深いのは、その1年後である。国債の償還に伴って現金・預金へ資金が戻ったほか、投資信託や国債以外の債券にも一定の資金が流入した。さらに、償還資金を獲得しようと銀行が高金利の定期預金を投入したことで、預金金利も一時的に上昇した。
両国の事例からは、個人向け国債は、株式や投資信託よりも、性格が近い預金との間で競合しやすいことがうかがえる。定期預金を中心に一時的な預金金利の上昇圧力につながる可能性も示唆される。株式・投資信託への影響は、イタリアとベルギーで異なる動きだったため慎重にみる必要がある。もっとも、国債の償還時には、預金のみならず投資信託などのリスク性資産にも一定の資金流入が期待できるなど、家計の資産配分の見直しにつながる可能性がベルギーの例からは示唆される。とはいえ、実際に日本の家計への影響がどうなるかは商品性次第でもある。今後の議論の行方が注目される。
(※1)Reuters “Italy's banks seek savings product comeback after retail state bond boom.”(2024年7月16日付)
(※2)Reuters “Belgium raises record 22 billion euros from savers in 'clear signal' for higher bank rates.” (2023年9月4日付)
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- 執筆者紹介
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金融調査部
主任研究員 森 駿介
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