消費税の議論を超えて ~欧州の経験から考える税と還元のあり方~
2026年08月21日
30年以上前のことになるが、留学先のイタリアでは20%程度の付加価値税(VAT)が課されていた。しかし、日常生活の中でVATを意識したことは殆どなく、「物価が高いのはVATが高すぎるからだ」「まずは税率を下げるべきだ」という議論を耳にしたことも一度もなかった。
1989年の消費税導入以来、日本では税率の引上げや減税の是非が繰り返し政治的な争点となってきた。そして現在、高市政権下においても、家計負担の軽減や経済活性化、社会保障財源の確保などを巡り、改めて制度のあり方が問われている。国民生活への影響が大きい政策であるだけに、関心が高まるのは当然であろう。しかし、世界各国ではVATの税率やその負担をどのように捉えているのだろうか。
実は、日本の消費税率10%は国際的にみると決して高い水準ではない。英国とフランスは20%、ドイツは19%であり、多くの欧州諸国は日本よりはるかに高い付加価値税率を採用している。(※1)近年は欧州の一部でもコロナ禍の影響等を背景にVAT税率の引き下げや軽減税率の拡大がみられるものの、日本のように消費税の是非そのものが国民的な政治争点となっているわけではない。
その理由は、欧州諸国等がVAT等の税率水準そのものよりも、「所得の低い層ほど消費に回す割合が高いため、税負担が重くなりやすい」という課題への対応を重視してきたからである。いわゆる「逆進性」の問題である。消費税は所得水準にかかわらず同じ税率が適用されるため、低所得層ほど負担感が相対的に大きくなりやすい。しかし、その問題への対応としては、税率の調整に加え、低所得世帯への給付や税額控除によって負担を調整する政策も広く用いられている。社会保障財源として消費課税を維持しながら、支援を必要とする人々に重点的に還元することが重要という考え方が広く社会に浸透しているのである。
その典型例が英国やカナダである。英国では、税と給付を連携させた制度を整備し、所得に応じた支援を行っている。カナダでも、消費税負担への対応策として低所得層向けの給付制度が設けられている。両国に共通するのは、「税率を下げる」ことよりも、「所得に応じて支援する」ことを重視している点である。
政府と与野党が参加した社会保障国民会議では、2027年度から2年間行う消費税率の引下げについては合意を得ることができなかったが、2029年度以後に目指すべき姿としての「所得に連動したきめ細かな給付」については概ね合意を得ることができた。(※2)
もちろん、日本には所得把握や行政事務の効率化など課題も少なくない。しかし、世界の経験が示しているのは、消費税の逆進性への対応は「税率を上げるか下げるか」という単純な二択ではないということである。重要なのは、安定的な財源を確保しながら、支援を必要とする人へ重点的に還元する仕組みをどのように構築するかという点であろう。日本の消費税に関する議論も、諸外国の経験を参考にしつつ、日本の社会保障制度や所得構造等の実情を十分に踏まえながら、税負担の問題だけでなく、給付等による還元のあり方を含め、総合的かつ中長期的な視点で再整理を行うべきではないだろうか。
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主席コンサルタント 小島 一暢

