エルニーニョ現象が問う日本の人道支援—アフリカの角とシーレーンリスク

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2026年08月14日

2026年から2027年にかけて、「エルニーニョ現象」が猛威を振るうとされている。エルニーニョ現象は、南米ペルー沖から西の海域にかけて海面水温が高くなる現象で、世界各地に異常気象をもたらしやすい。世界気象機関は、今回のエルニーニョ現象が非常に強いものになると指摘している。2022年のロシアによるウクライナ侵攻を契機に世界的に生じた食料危機とは異なり、この現象は、作付け時期や灌漑などの設備の整備状況次第で、地域・農作物ごとに異なる影響を及ぼす。過去の例からは、インドや東南アジア、オーストラリア、ペルー・エクアドル・ハイチなどの中南米、エチオピアやスーダンなどのアフリカで深刻化しやすいといわれている(※1)。

日本に暮らしていると、インドや東南アジアほどエルニーニョ現象がもたらす影響を深刻にとらえる場面は少ない。輸入に依存している小麦や砂糖価格の上昇は多少生じるかもしれないが、主食であるコメの大半は国内で生産されているため、価格に対する影響が直接的に見えにくいためだ。しかし、今年は、日本にとってエルニーニョ現象が別の意味で重要となる可能性がある。

これまで、同現象は「アフリカの角」と呼ばれるエチオピアやジブチ、周辺国のスーダンなどに深刻な食糧危機をもたらしてきた。例えば、過去最悪といわれた2015~2016年のエルニーニョ現象発生時には、エチオピア国内の穀物生産が50~90%減少し、人口の約10%(2015年)にあたる1,020万人が食料不安に陥った(※2)。これに対し、積極的な資金拠出を行ったのは、当時オバマ政権下であった米国だった。米国は2015~2016年8月までに7億7,400万ドルという最大規模の拠出を行ったのである(※3)。翻って現在の状況を見ると、トランプ政権下の米国では、エチオピア支援を主導したUSAID(アメリカ合衆国国際開発庁)が解体されるなど、支援能力が低下していることは明らかである。

このような中、人道支援の推進役として期待されているのが日本だ。先日、日本経済新聞の中で、UNDP(国連開発計画)総裁であるアレクサンダー・デクロー氏が、「国内に生活貧困者を抱える中で、なぜ途上国にお金を使うのか」という質問に対し、援助ではなく、投資と認識すべきと回答していた(※4)。「世界の他の国々とパートナーシップを組んで投資することは安全保障でもある」という。まさに、エルニーニョ現象を契機とした人道危機に対する支援は、安全保障を確立するための投資と考えられるのではないか。例えば、アフリカの角諸国は、紅海の入り口である、バブ・エル・マンデブ海峡を抱えている。紅海は、ホルムズ海峡の代替ルートとして注目されており、日本企業にとっても重要な物流ルートである。食料危機は単に飢餓の問題にとどまらず、地域の統治能力や治安維持能力を弱める。アフリカの角のように主要航路に接する地域では、その不安定化が海賊・武装勢力・密輸などのリスクを高めるため、日本にとっても無縁ではない。人道支援を介した、ソマリアやジブチ周辺のレジリエンス向上への関与は、将来の海上安全保障リスクを低減する「予防的投資」といえる。日本は、人間の安全保障とシーレーン(海上交通路)の安定を結びつける形で、より戦略的な人道支援を検討すべきではないか。

(※1)WFP “El Niño Impacts on Food Security: Lessons from past El Niño events for 2026/27 preparedness” June 2026
(※2)FAO “Ethiopia Situation Report” Feb 2016
(※3)OCHA “Ethiopia Weekly Humanitarian Bulletin” 22 August 2016
(※4)日本経済新聞 電子版「途上国援助の発想変えよ、ODAは投資 国連開発計画のデクロー総裁」2026年8月1日

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増川 智咲
執筆者紹介

経済調査部

シニアエコノミスト 増川 智咲