ホルムズ海峡封鎖で変わる世界地図—改めて問われる「成長投資」とは?

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2026年04月17日

中東危機により2026年2月末からホルムズ海峡が事実上封鎖される中、4月1日のトランプ大統領による攻撃継続・激化発言を受け、WTI原油先物価格は翌日110ドル台へ急騰。一気にエネルギー供給不安が高まった。地政学リスクが燻りながらも、原油価格が60~70ドル台の中心レンジで推移していた2025年から26年2月末と比べると、自ずと見える世界は変わってこよう。

中東危機を契機とした原油高で思い出されるのは、『探求-エネルギーの世紀』(※1)だ。エネルギー問題の世界的権威で、ピュリツアー賞受賞作の大ベストセラー『石油の世紀:支配者たちの興亡』で知られるダニエル・ヤーギン氏の著書である。同氏は以下に挙げる3つの疑問に答える形で、人間のエネルギー探求の歴史を振り返り、エネルギーの未来を描いた。--(1)成長する世界の需要を満たすエネルギーは供給されるのか?まかなわれるとしたらどういったコスト、テクノロジーなのか?(2)エネルギー・システムの安全保障は護られるか?(3)気候変動などの環境問題への懸念は、エネルギーの未来にどのような影響を及ぼし、エネルギー開発は環境にどのように影響するのか?

エネルギー政策には長期的な視野が必要であり、成果や変化がもたらされるまでに長い期間を要する。ヤーギン氏は、脱炭素が進む中でも、化石燃料が急に消えることはなく、次のエネルギー世紀は、石油・ガス・原子力・再エネ・省エネが併存し、供給不安と気候制約の間で最適ミックスを探り続ける未来を描き出した。そして、どのようなミックスになるにせよ、「イノベーションの重要性がこれまでになく大きくなっている」。

「第27章 再生可能エネルギーの再生」には、堺屋太一氏(※)の『油断!』(1975年)が登場する(※当時の通商産業省[現、経済産業省]の有望な若手官僚池口小太郎氏のペンネーム、のちに経済企画庁長官などを歴任)。ホルムズ海峡の封鎖とその約200日間の継続下での日本経済の変容が描き出され、当時のベストセラーとなった。あるべきものが突然なくなることの社会的影響は壮絶だ。日本は1973年のオイルショック以降、ムーンライト計画などを通じた省エネルギーの推進、サンシャイン計画による太陽光や、原子力、LNGなどの石油代替エネルギー源の開発・活用を進めた。石油の海外依存度の高さに危機感を覚えて同書を執筆した著者は1979年の第二次オイルショック後、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の発足に携わる。予算と人材を集中的に投入されたNEDOは再エネ研究を促進。日本は二十一世紀初頭、一時的に、世界のソーラー市場を支配する製造国に成長した。知識を基盤とする新産業を創出し、それに強力な輸出潜在力を持たせていく構想だった。

近年では、2020年の「2050年カーボンニュートラル」宣言後、翌年発足した岸田政権のもとで、エネルギー安定供給、経済成長、脱炭素の同時実現が掲げられ、2023年5月にGX(グリーントランスフォーメーション)推進法とGX脱炭素電源法、24年5月に水素社会推進法とCCS事業法が成立(※2)。GX推進戦略の策定により、GXの実現に向けた取り組みが加速している。GXの推進は化石燃料への過度な依存から脱却し、中長期的なエネルギー安定供給の確保にもつながるものだ。2025年2月には、3年ごとに見直される「第7次エネルギー基本計画」で、発電の電源構成として、再エネを2023年度(速報値)の22.9%から2040年度の4~5割程度、原子力を8.5%から2割程度、火力を68.6%から3~4割程度に変更し、エネルギー自給率を15.2%から3~4割程度へ高める方針が打ち出された。

2025年10月に誕生した高市政権は、2026年2月の施政方針演説で、脱炭素・GXについて「世界共通の課題である気候変動に対し、危機管理投資の観点から大胆なGX投資を進め、脱炭素を成長につなげていきます。特に、GX型の産業集積やワット・ビット連携を促進し、新たな産業クラスターを形成していきます。また、アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)を通じ、アジアにおける脱炭素化に貢献するとともに、アジアの成長力を取り込んでいきます。」と表明。脱炭素政策は、危機管理投資・成長投資の観点が強化された。

中東危機の中で広がった原油の「供給不安」は、脱炭素を日本の成長戦略・産業戦略として再構築する必要性を浮き彫りにしている。GX産業立地は、政策の一貫性と市場設計が伴えば産業集積へと発展し、日本経済の成長基盤となり得る。ただし、安易な財政拡張ではなく、民間投資と金融市場のリスクマネーを引き出す制度設計とその実行力が求められよう。国家・企業・金融市場が連動すれば、日本企業の技術革新は加速し、AZECを通じたアジアの成長を取り込みながら、脱炭素市場のルール形成へとつながっていく。脱炭素を「理念」にとどめるのか、「立地戦略」「企業戦略」として実装し成長力と競争力を高めていけるのか。いま問われているのは、政策と経営の意思決定となろう。

(※1)ダニエル・ヤーギン『探求—エネルギーの世紀(上)』伏見威蕃訳、日本経済新聞出版社、2012年、pp.7–16.
同上、『探求—エネルギーの世紀(下)』伏見威蕃訳、日本経済新聞出版社、2012年、pp.201–203. (※原著:Daniel Yergin, The Quest, 2011)

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山田 雪乃
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