2014年06月20日
2014年5月末、イギリス国家統計局(ONS)は今年9月より、違法な経済活動である、麻薬など違法薬物取引や売春などを、GDP統計に含めると発表した。ONSによれば、2009年の名目GDPに対するインパクトは約0.7%のプラスとなる。具体的には、違法薬物取引で約44億ポンド、売春で約53億ポンド、合計約100億ポンド(約1兆7,000億円)がGDPに上乗せされる計算となる。
実はイギリスだけの話ではない。イタリアもイギリスと同様に9月からの違法薬物および売春についてのGDPへの加算をすでに表明している。
しかし、違法な経済活動をどのようにしたらGDPに反映できるのだろうか。ONSの発表によると、たとえばヘロインの場合には、犯罪統計からヘロインユーザーを推計し、警察が押収したヘロインの純度、街での取引価格などを用いて、売上高を推計している。また、売春については、売春婦の数や一人1週間あたりに訪問される回数を推計、1回あたりの単価を独自で調査するなどして、売上高を推計するとしている。合法的な経済活動ではないため、通常行う統計調査票による調査が不可能であることから、数値把握にはこのような推計が中心となる。
なぜこのような動きが出てきたのであろうか。この発端はさかのぼること1995年、欧州連合統計局(Eurostat)が、「93SNA(1993年に国連が加盟各国にその導入を勧告した国民経済計算の体系の名称)」の導入にあたり、EU諸国の状況に適合するような体系である「欧州版国民経済計算体系(the European System of Accounts 1995: ESA95)」を定めた。原則として全てのEU加盟国にはこのESA95を採用する義務が課されている。ESA95では、現在の統計で捕捉できない経済活動(地下経済)の規模が大きくなっていること、そのなかには合法な経済活動と非合法な経済活動が混在しているが、その境界を引くのは非常に難しいことなどから、それらを区別することなく取扱い、GDPに加算することが適当という旨などが指摘されている。しかし、この取扱いについては、加盟国ごとに対応が異なっている。
Eurostatによれば、2012年現在でエストニア、オーストリア、スロベニア、フィンランド、スウェーデン、ノルウェーの6ケ国はすでに、ESA95に則り、いわゆる地下経済をGDP統計に含めている。しかし、それらの国々のなかでもどのような非合法な経済活動をカウントしているのかについてはばらつきがある。地下経済についてはまだ“統計的”コンセンサスができていないのが実情のようである。そうしたなかでのイギリスの発表であった。
では地下経済の規模(合法な経済活動も含む)は各国でどの程度になっているのだろうか。インターナショナル・エコノミック・ジャーナルの2010年12月号に掲載された“New Estimates for the Shadow Economies all over the World”によれば、GDP比で、日本11.0%、米国8.6%、イギリス12.5%、ドイツ16.0%、フランス15.0%、ブラジル39.0%などとなっており、最も比率が高い国はボリビアで66.1%となっている。確かに無視できない規模である。
GDPが嵩上げされれば、各国の政府債務残高のGDP比率は低下する。ある意味で見栄えは良くなる。あるいは、真の国力が過小評価されている結果その国が負担すべき国際的な義務を免れているケースなどが捕捉できるようになるかもしれない。
しかしながら、非合法の経済活動を容認するべきでないことは言うまでもない。GDPの構成要素とする一方で、非合法経済活動の規模をどのようにして縮小させていくのか、各国の経済運営手腕がますます問われることになる。
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