サマリー
◆本レポートシリーズは、デジタルアイデンティティをめぐる動向を「取組み」と「実装技術」の両面から体系的に整理することを目的とする。第1部では、デジタルアイデンティティおよびデジタルクレデンシャルの基本概念を整理した上で、EUDIウォレット(EU Digital Identity Wallet)を例に、制度化の背景、実装プロセス、主要ユースケースを俯瞰する。
◆デジタル化の進展により、個人や組織のアイデンティティは、単なる本人確認にとどまらず、資格や権利を含む情報としてデジタル空間で扱われるようになっている。こうした変化のなかで、証明情報を安全かつ効率的に流通・検証する手段として、デジタルクレデンシャルが社会基盤の一要素として位置づけられつつある。
◆デジタルクレデンシャルの実装においては、発行者(Issuer)・保有者(Holder)・検証者(Verifier)の三者モデルを前提に、検証可能な形で情報をやり取りするVC(Verifiable Credentials:検証可能なクレデンシャル)の考え方が広く採用されている。各国で制度や提供主体は異なるものの、クレデンシャルをウォレットに保持し、必要な相手に提示・検証するという基本構造には共通性が見られる。
◆一方で、VCの実装方式としては、DID/VC、mdocなど複数の技術標準・データ形式が並立している。これらの違いは表現形式にとどまらず、相互運用性や検証の前提、適合するユースケースにも影響し得るため、取組みの動向とあわせて技術的前提を整理することが重要となる。
◆欧州で進められるEUDIウォレットは、公的・制度的な信頼基盤を土台に、利用者起点の情報制御と域内での相互運用性を制度要件として組み込んだ象徴的な取組みである。改正eIDAS規則の下、共通仕様(Toolbox)と大規模実証(Large Scale Pilots:LSPs)を往還させながら、実装の現実性と相互運用性の検証・改善が進められている。
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