中東リスクがASEAN進出企業に与える影響の差は、どのように生じているか?

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2026年05月15日

中東情勢の見通しが不透明な状況が続いている。そのため、中東由来の原油やナフサ等の精製品価格が不安定な状況は、しばらく続くとの見方が大勢だ。ナフサは、包装材等に使われるポリエチレン、自動車部品等に使われるポリプロピレン、タイヤ等に使われる合成ゴム、家電部品等に使われるポリスチレン、建材に使われるポリカーボネート、ペットボトルに使われるポリエステルと幅広い製品の原料となる。ナフサ不足は、自動車や包装・日用品、電子機器、産業用機械等多くのセクターの経営に影響を与える。

ASEANは世界でも、ナフサ由来の「基礎化学品(エチレン等)」や「その誘導品(基礎化学品から化学反応によって生成される製品で、ポリエチレン等)」の主要な生産拠点である。特にタイ、シンガポール、マレーシアの生産能力が大きく、日本が調達しているポリエチレンの内、約12%をタイ、約3%をシンガポールに依存している(※1)。また、ASEANに進出している自動車や家電セクターの日系企業も、これら基礎化学品や誘導品が関わるサプライチェーンを基盤としている。原油価格の上昇が長引けば、ASEAN進出日系企業への悪影響が顕在化する可能性が高い。

ただし、その影響はASEAN域内でも一様ではない。例えば、タイの総合化学メーカーであるPTT Global Chemical(PTTGC)は、国内天然ガス由来エタンや非中東由来ナフサの使用割合が高く、中東依存度が低い。今般の中東危機に際しては、エチレンプラントをフル稼働させることでナフサ価格高騰による影響を緩和している。また、上流(精製)から下流(石油化学製品)を一貫生産するという強みがある点も大きい。これによって、自社サプライチェーンは比較的安定しており、日系企業(自動車や電機セクター等)への大規模供給停止も回避できているという。同様の事例は、マレーシアでもみられる。マレーシアでは、国内のガス資源が豊富であることに加え、国営石油・ガス会社のPETRONASグループが上流から下流までを一貫生産している。国が同社の運営に介入することで、国内向けの安定的な供給を確保し、日系企業への影響も限定的なものに抑えているという。

他方、ナフサ不足で苦戦したのが、インドネシアの石油化学企業であるChandra Asri Groupである。同社は、ナフサの中東輸入依存度が高い。3月2日には不可抗力宣言(非常事態に直面した企業が、販売先への供給義務を免除された状態にあること。5月5日に解除)を行い、ナフサクラッカー(ナフサを高温で熱分解する中核設備)の稼働率を下げた(※2)。その影響は、日系の自動車サプライチェーンに影響を与えたとみられる。このような状況に直面している企業は、他にも少なくない。

このように、今回の中東危機がASEAN進出日系企業に与えている影響は、同じサプライチェーンにある石油化学企業の中東由来ナフサ依存度(国内資源の有無)に加え、上流から下流までの一貫生産の有無、ナフサ不足に対する国による介入の程度によって、大きく異なるものとなっているようだ。ただし、原油高の高騰が長期化すれば、より幅広く悪影響が及ぶ可能性も否定できず、状況は流動的である。ASEANの窮地に対して日本の支援が求められているが、「どこで目詰まりが生じているか」を把握するための密なコンタクトが欠かせないことを意味している。

(※1)経済産業省 中東情勢に伴う重要物資の安定的な供給確保のためのタスクフォース「中東情勢を踏まえた燃料油・石油製品の安定供給確保及び重要物資の安定的な供給確保のための対応方針(案)」(令和8年4月10日)
(※2)不可抗力宣言の出所は、ICIS “UPDATE: Indonesia’s Chandra Asri declares force majeure on feedstock disruption” (2026年3月3日)。
不可抗力宣言解除の出所は、Chandra Asri公式リリース “Chandra Asri Lifts Force Majeure Status, Strengthens Reliability of National Industrial Supply”(2026年5月5日)。

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増川 智咲
執筆者紹介

経済調査部

シニアエコノミスト 増川 智咲