タイ、下院総選挙を経て新政権発足へ。単なる数合わせか?変化を生み出すか?

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2026年02月20日

2026年2月8日、日本で衆議院議員選挙が行われたこの日、タイでも下院総選挙(定数500議席)が行われた。結果の全貌はまだ明らかとなっていないが、選挙管理委員会が公表している開票率94%時点の暫定結果によると、アヌティン首相が率いる「タイ誇り党」が193議席を獲得して第1党となった模様である。過半数にあたる251議席を単独では満たせなかったため、アヌティン党首は連立交渉を重ねた後、13日にはタクシン元首相派である「タイ貢献党」と連立を組むことで合意したと発表した。

この結果に対し、有権者の中には失望を感じた者も少なくなかっただろう。そもそも、2023年5月の前回下院総選挙後に連立政権を発足させた、「タイ誇り党」と「タイ貢献党」の両党は、カンボジアとの国境問題(2025年7月発生)を契機に「タイ誇り党」が離脱したことで袂を分かった経緯(※1)がある。今回の連立政権合意は、単なる数合わせとの印象を与えかねない。

また、選挙前の2025年12月4-12日に実施された世論調査(Nida Poll)では、「本日下院総選挙が実施されるとして誰に投票しますか」という問いに対して、40.6%が未定、17.2%がナタポン氏(国民党)、12.3%がアヌティン氏(タイ誇り党)、10.8%がアピシット氏(民主党)、6.3%がジュラパン氏(タイ貢献党)と答えたという。国民党は、2023年の前回選挙で王室改革や憲法改正を掲げた前進党の後継といわれている。前進党は前回選挙では第1党となったものの、「改革派」への強い風当たりからその後解党命令を受けた。前記世論調査で「未定」とした40.6%の中には、改革派である国民党を支持しつつも、国民党の政権奪取は政治的な理由で叶わないと「あきらめている」者が多く含まれていたのではという見方もあった。つまり、下院総選挙が始まる前から、タイの政治を大きく変えることをあきらめた人たちが多かったと解釈することも可能ではないだろうか。

今後発足する新政権に期待されていることは、このような「あきらめ」を良い意味で裏切ることだろう。増加する家計債務問題への切り込み、イノベーションによる生産性向上、少子高齢化対策など、「中所得国の罠」に陥っているといわれるタイには、多くの課題がある。どの分野においても、既存の政策だけで変化は起きそうもない。例えば、アヌティン政権で打ち出された家計債務救済策は、タイで9,000万ともいわれる預金口座(預金保険対象)のうち約2%にあたる200万口座が対象となるというが、それだけでは根本的な解決策とはなりそうにない。新政権が、抜本的な変革をもたらすことができるのか注目していきたい。

(※1)ペートンタン首相失脚後の2025年9月、「タイ誇り党」のアヌティン党首が議会内多数派工作を経て首相に選出された。これにより、「タイ貢献党」は事実上連立から排除された形となった。

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増川 智咲
執筆者紹介

経済調査部

シニアエコノミスト 増川 智咲