2026年、高市政権の課題
2025年12月26日
2026年に高市政権が抱える最大の課題の一つは、1人あたりの実質賃金を安定的に上昇させることである。
高市政権は2025年11月21日に新たな総合経済対策を閣議決定した。物価高対策や危機管理投資・成長投資による強い経済の実現などを柱としている。ただし、バラマキ色の強い施策が実施されれば、需要が喚起され過ぎるだけでなく、日本の財政状況への懸念から円安が進むことを通じても、物価上昇圧力は一段と強まり得る。こうした状況を避けつつ、効果的な物価高対策を打つには、行き過ぎた物価上昇の直接的な原因を取り除くことに注力すべきだ。日本の物価上昇の背景には、食料品を中心とした供給ショックやそれに伴うインフレ期待の高まり等がある。食料品の価格安定に向けた取り組みを強化することは、過度な物価上昇を抑制するのに効果的であろう。
当社は、過去20年間(2004年~2024年)のデータを用いて、日米両国の実質賃金上昇率を5つの要因に分解した結果(図表)、日本では①労働生産性、②労働時間、④交易条件、⑤保険料等の企業負担、が、米国との比較において、長期的に実質賃金上昇の足枷になっているものと認識している(ただし、現行基準(2020年基準)のGDP統計のデータは本稿執筆時点で一部の公表にとどまるため、上記の分析は旧基準(2015年基準)のデータに基づいており、一定の幅を持って見ていただく必要がある)。高市政権は幅広い分野で政策を推進する方針だが、それらがどのような経路を通じて実質賃金に影響を及ぼすかを整理したのが図表上である。
図表下に示した通り、2040年度までの実質賃金は、直近の経済状況を将来にわたって投影したシナリオ(「現状投影シナリオ」)では年率+0.7%の見込みだ。さらに、各種政策で企業の投資行動などが大きく変化し、労働市場改革や社会保障改革なども進展すれば(「政策推進シナリオ」、「高成長シナリオ」)、実質賃金の伸びを同+1.2~1.6%程度まで高めることも可能であると考えられる。
2026年の高市政権には、対症療法を講じるのではなく、わが国が抱える構造問題にまで踏み込む形で、実質賃金が持続的に上昇する環境を作り出すことを期待したい。
図表 高市政権の主な政策(上)とシナリオ別の実質賃金見通し(下)
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。

- 執筆者紹介
-
調査本部
代表取締役副社長 兼 副理事長 熊谷 亮丸

