12月金融政策決定会合の注目点

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2025年12月12日

「責任ある積極財政」を掲げる高市早苗政権で初の経済対策である、「『強い経済』を実現する総合経済対策」(2025年11月21日)が発表された後、市場では長期金利の上昇が一段と進んだ。急速な円安の進行にも直面する状況で迎えた12月1日の講演会で植田和男・日本銀行(日銀)総裁は「決定会合においては、(中略)利上げの是非について、適切に判断したい」(※1)と発言した。今後、経済・金融市場に大きなリスクが発現しない限りは、日銀が12月に利上げを行うことはほぼ間違いない。

日銀としては、国内の賃金・物価動向という側面から利上げ圧力が強い状況の中、円安の急進による物価上昇率の上振れリスクを抑制することが重要となろう。もっとも、12月会合で利上げに踏み切ったとしても、その後の利上げ姿勢も併せて示されなければ、「利上げ打ち止め」との思惑から為替レートがむしろ円安方向に動く可能性もある。円安経由の物価上昇を抑制するには、「タカ派」的なメッセージをどの程度強く示すことができるかがカギとなる。

「タカ派」的なメッセージは長期金利を押し上げる要因として通常は働く。だが、今の局面での「タカ派」的なメッセージは、意外にも長期金利の将来的な上昇の抑制につながるかもしれない。長期金利は、先行きの政策金利見通しを反映する要因である「リスク中立金利」と、それ以外の要因(国債需給やインフレ期待の変化等)による変動を指す「タームプレミアム」に分解することができるが、長い目で見れば「タームプレミアム」の大幅な上昇を抑制できるかもしれないからだ。

総合経済対策の発表後に進んだ長期金利上昇の裏には、供給制約下での財政拡張によって物価が大幅に押し上げられることや、国債需給の緩和に対する警戒が広まったことがあるとみられる。同時に円安が進んだが、これは更なる物価高を招く。総合経済対策で政府が物価高対策に巨額の予算を振り分けたことを踏まえれば、今後も更なる物価高対策を講じる可能性があり、その財源を国債の発行に頼ることになれば円安が一段と進行する、といった形で悪循環に陥る可能性がある。物価高対策の効果が剥落した後は、円安による物価押し上げ効果のみが残ることを踏まえれば、この悪循環は、国債需給の緩和だけでなく、インフレ予想の上昇という側面からも、「タームプレミアム」の拡大を通じて、長期金利を押し上げ得る。

だが、「タカ派」的なメッセージを強く示すほど、円安の進行を抑えることができる可能性が高まる。これが円安是正につながることで追加の物価高対策の規模を縮小させることができれば、国債の発行額も抑制できる。結果として、上記の悪循環に陥るリスクを低下させることができ、「タームプレミアム」の大幅な上昇を回避できる可能性も高まるというわけだ。

12月の金融政策決定会合では、長期金利が急上昇している要因を日銀がどのように捉えているかということに加えて、記者会見を通じて発せられるメッセージがどの程度「タカ派」寄りかということに注目したい。

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久後 翔太郎
執筆者紹介

経済調査部

シニアエコノミスト 久後 翔太郎