盛り上がりに欠ける英国の政権交代
2024年07月26日
7月4日に英国で行われた総選挙では、2010年以来、14年ぶりの労働党への政権交代が起こった。労働党は定数650のうち、単独過半数となる411議席を獲得した(以下、選挙結果は英国下院図書館による)が、これは「ニューレーバー」を掲げたブレア党首(当時、のち首相)の下で労働党が政権を奪取した1997年の選挙に次いで、過去2番目の多さである。一方、前与党・保守党の獲得議席数は121議席と、こちらは過去最低となり、今回の労働党の勝利は歴史的なものといって差し支えないだろう。
だが、こうした歴史的な結果とは裏腹に、選挙自体が盛り上がったかというと決してそうではなかったように思われる。今回の総選挙は、筆者が英国で体験する初めての選挙であったため、英国独自の選挙スタイルが筆者にそう感じさせたという面はあるかもしれない。英国での選挙活動は草の根の戸別訪問が中心であり、日本のように掲示板に選挙ポスターが貼られることもなければ、街頭での演説も行われない。日本の選挙と比べれば、選挙活動は極めて静かに行われる。
もっとも、そうした違いを抜きにしても、今回の総選挙は盛り上がりを欠いていた。その証左として、投票率は59.8%と過去2番目に低かった。労働党の圧勝が事前に確実視され、投票の必要性を感じない人が多かったことがその一因と考えられるが、保守党のみならず、労働党への期待感の低さが、投票をためらわせた可能性がある。
労働党は今回の総選挙で大幅に議席数を増やしたが、得票率は前回2019年の選挙から1.6%pt上昇しただけにすぎず、33.7%に留まった。これは、議会第一党としては、戦後最も低い水準である。しかも、得票数では前回の選挙からむしろ減少している。労働党の大勝は、労働党以上に保守党が大きく票を減らした結果にすぎず、英国民が積極的に労働党を支持しているわけではない。
また、労働党、保守党の二大政党合計での得票率は57.4%と、こちらも過去最低となった。裏を返せば、二大政党以外の政党の存在感が増したということであり、実際、自由民主党は過去最多となる72議席を獲得した。また保守党から保守層の支持を奪った右派・リフォームUKは、議席数こそ5議席に留まったものの、得票率は14.3%と自由民主党を上回る3位に着けている。さらに、左派・緑の党も、若年層による支持の拡大によって得票率が上昇、従来の1議席から4議席へと議席を増やした。
こうした投票結果からは、英国民の意識が以前よりも多様化していることがうかがえる。単独過半数を確保したことで、議会では労働党による円滑な議会運営が見込まれるが、政策が広く国民の支持を得るのは決して容易ではない。今回有権者から向けられた保守党への失望が労働党自身にも向けられる可能性を肝に銘じなければならないだろう。
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- 執筆者紹介
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ロンドンリサーチセンター
シニアエコノミスト(LDN駐在) 橋本 政彦
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