2024年07月03日
甲;2024年4月3日、岸田首相が「…より多くの企業において有価証券報告書の開示が株主総会前のタイミングになるよう、その環境整備について、金融庁を中心に関係省庁と連携して検討を進めさせます」(※1)と発言した。これで長年の懸案であった有価証券報告書の総会前提出の進展が期待できそうだ。乙の会社でも検討は始めているのだろう?
乙:まあね。今でも定時株主総会の開催日当日には提出しているから、2~3日前倒しするくらいなら問題はないと思うが。
甲:おいおい、それでは意味がないだろう。株主が事前に読み込んで定時株主総会に臨むためには、少なくとも1週間程度前には提出してもらわないと。
乙:それは、わかっているよ。だけど、有価証券報告書だけでなく、株主総会資料の作成も必要だし、これらの監査を行う監査法人も、この時期、仕事が立て込んでいて大変なのだ。加えて、サステナビリティ情報開示の拡充もあって担当者は悲鳴を上げているよ。
甲:大変なのはわかるが、令和元年改正会社法で株主総会資料の電子提供制度と併せて、有価証券報告書のEDINET提出で株主総会資料を代替できる特例も導入されている。特例の活用で、別途、株主総会資料を作成しなくても済むなら、事務負担も軽減されるのでは?
乙:理論上はね。しかし、株主から株主総会資料を書面で欲しいと請求されたら、それに応じなければならない。有価証券報告書だけで済ませるわけにもいかないのだ。
甲:書面交付請求制度か。確かに課題も多いと聞くな…。
では、定時株主総会そのものを基準日ごと後ろ倒しして7~8月に開催すればどうだ?そうすれば、むしろ時間は確保できるだろう。
乙:勘弁してくれよ。我々、総会担当者は、酷暑の中を夏休み返上で働けというのか?
甲:それもそうだな(笑)。それならいっそ決算期を変更すればどうだ?
乙:どういうことだ?
甲:決算を12月にして、基準日を2月にすれば、有価証券報告書を3月に提出し、定時株主総会を4~5月に開催できるという最近よく目にする提案(※2)だ。
乙:総会担当者としては、7~8月開催よりはましだが…。経理担当は嫌がるだろうな。それに役員人事のタイミングも難しいことになりそうだ。
ところで、今までに挙がった方法のうち、甲はどれが一番有力だと思う?
甲:実は、どれか一つに絞らない方が良いと思っている。
乙:それはどういう意味だ?
甲:どれか一つに絞ると、結局、定時株主総会の開催日も、関係者の事務負担も特定の時期に集中することは避けられない。むしろ、各上場会社が自社の事情に応じた方法を選択することで、適度に分散するのが望ましいと考えている。そうすれば、上場会社の定時株主総会の開催時期が4~8月に散らばり、それに伴って監査法人や信託銀行などの事務も集中しないで済むのではないだろうか。
乙:そううまくいくかな?
だが、各上場会社が自社の事情に応じた方法を選択するというアイデア自体は悪くない。その場合、有価証券報告書の提出の前倒し、定時株主総会の開催日の後倒し、決算期を含めたスケジュール全体の見直し、それぞれのメリット・デメリットを整理して、最も実現可能性が高い方法を検討するという流れになるのだろうな。
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