もしトランプ政権が発足した場合、ASEAN諸国への影響は
2024年04月19日
2024年11月の米国大統領選挙までおよそ半年となった。選挙戦では民主党バイデン現大統領と、共和党トランプ前大統領の接戦が予想されている。トランプ氏再選の可能性が高まるにつれ、市場では、トランプ政権2期目が発足した場合の影響を予測する動きが活発だ。ここでは、貿易と金融政策に注目して、ASEAN諸国への影響がどのようなものとなるのか考えてみたい。
まず、貿易への影響として想定されるシナリオは、米国への輸出を大きく増加させている国、とりわけ米国の貿易赤字に占める割合が拡大している国への締め付けである。
トランプ政権1期目では、貿易赤字を「悪」とし、貿易不均衡を是正する動きが顕著であった。当時、米国の最大の貿易赤字相手国であった中国に、高関税が課されたのもこのためである。米国の貿易赤字に占める中国の割合は、トランプ政権発足直前である2016年の47%から、直近の2023年には26%に低下した。これに代わり、米国の貿易赤字に占める割合が上昇したのが、メキシコ、ベトナム、カナダである。その中でもベトナムは、2016年の4.3%から2023年には9.8%へと大きく上昇した。背景には、グローバル企業が中国からベトナムに生産拠点を移管したほか、対米輸出が困難となった中国企業もベトナムに進出し、対米輸出を加速させた点が考えられる。
仮に、トランプ政権が発足した場合、米中貿易摩擦下で恩恵を受けてきたベトナムへの風当たりも強くなるだろう。実際、トランプ氏は再選後の通商政策について、中国からの輸入品に一律60%、中国以外のすべての輸入品にも10%の関税を課すと発言 しているほか、メキシコを例として、第3国に進出した中国企業が米国に輸出をする際、100%の関税を課すとも言及している 。ベトナムは名指しされていないが、規制の対象となる可能性がある。その場合、ベトナムの対米輸出に急ブレーキがかかりかねない。
続いて金融政策では、ASEAN諸国が利下げの適切なタイミングを見失うリスクがある。トランプ政権1期目のときと比べて、米国やASEAN諸国の足元の金利水準は高い。長引くインフレに直面する米国で利下げのタイミングが遅れ、ASEAN諸国も利下げに踏み切れずにいるためと考えられる。ASEAN諸国は資本流出を恐れ、米国よりも先に利下げに動けないのである。
今後予想される米国の利下げ開始のタイミングについて、市場では、大統領選挙の時期と重なる可能性を指摘する声も聞かれる。仮に、トランプ氏の再選ともなれば、不透明感の高まりを受けて、新興国から資本流出が進む可能性がある。実際、トランプ氏が初当選した2016年の大統領選挙の際も、選挙後1カ月にわたって、新興国から資本流出が続いた(Institute of International Finance)。これと同じことが起きれば、米国が利下げに動いたとしても、ASEAN諸国がそれに追従することは難しくなる。
このように、米国大統領選挙が、ASEAN諸国の貿易や金融政策に及ぼす影響は大きい。特に、トランプ氏が再選となった場合、米国と中国の「デカップリング」以上の影響に注意しなくてはならないだろう。
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経済調査部
シニアエコノミスト 増川 智咲
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