2022年04月18日
毎年4月1日は多くの企業で入社式が行われる。ここで新入社員は人的資本経営の仲間入りを果たす。人生100年と言われるが、社会人という大海原の旅に出発する。人的資本経営とは人材の能力を引き出し、その価値を高め、長期的な企業価値向上につなげることである。企業には社員が能力を最大限に発揮し、企業価値向上に資する行動を促すことが求められる。企業経営における外部環境の変化は想定を超える内容、規模、速さだ。こうした変化に柔軟に適応し、ビジネスチャンスを発見し、収益機会につなげていく人材が期待されている。
一方、人材を供給する学校の教育プログラムも改革が進んでいる。情報教育では人工知能やデータ解析に使われるプログラミング言語であるPythonを修得し、金融教育においてはビジネスや人生100年を意識した、生活設計・家計管理、貯蓄・投資、金融商品等を学んでいる。これからの新入社員は知識では過去の世代よりもはるかに多くのことを学んでいる。高い潜在能力を有する超新人類である。そして新入社員をいかに戦力化するかは、企業の腕の見せ所である。
人的資本経営を推進するには、制度設計やツールが不可欠であることは言うまでもない。ここでは、効果的な推進を実現するための3つの要諦を挙げる。
①公正な人事評価
②直属上司との面談機会
③評価と面談に基づく最適な配置
以上である。
はじめに公正な人事評価を行い、本人の能力の過不足を正確に判断する。人事評価と聞くと給与や賞与の金額、昇格や昇進といった処遇に焦点が当たりがちであるが、評価結果に基づき人材育成に活かすことがはるかに重要である。上司が部下の能力を正しく評価し、課題を把握した上で面談を行い、今後の能力開発の重点項目やキャリアパスを相互に確認し合う。その上で最適な配置を行い、本人が能力を最大限に発揮できる場を提供することである。このサイクルを上手く循環させるには公正な人事評価が大前提となる。しかし多くの企業が人事評価について課題を抱えているのが実情だ。コンサルティングの現場でインタビューを行うと、社員の不満や離職の原因は給与よりも評価に関する内容が多数である。公正な人事評価の実現というハードルを越えなければ、人的資本経営の実現は難しくなる。
それでは公正な人事評価の実現に必要なことは何であろうか。解決策を2つ挙げる。
①評価エラーを極力排除する評価基準の設計
例えば評価基準を作成したならば、少なくとも3年に一度は見直しを行い、自社の経営戦略や外部環境の変化に適合した内容に修正することである。
②評価者に対する継続的な評価スキルの訓練
単なる人事評価のルール解説ではなく、自社の具体的事象を題材にした事例演習の実践である。ここで評価者の目線を全社で共有し、評価エラーを最小限に抑えることである。
以上である。
評価される側の社員も流行りの施策より、自分が公正な評価を受けているか否かをしっかりと見極めている。この事実を見落としてはいけない。さて、あなたの会社は超新人類の社員を受け入れる準備は万全であろうか。地道ではあるが、ここが人的資本経営の出発点である。
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- 執筆者紹介
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マネジメントコンサルティング部
主任コンサルタント 柳澤 大貴
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