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オバマケア廃止に見込まれる意外な効果

2017年01月25日

経済調査部 シニアエコノミスト 橋本 政彦

雇用の創出を政策における最重要課題にしているトランプ大統領は、2016年の大統領選挙戦において「本当の失業率は20%」と主張し、労働市場の悪さをたびたび強調してきた。こうした主張には根拠がなく、さすがに現実的とは言い難いが、失業者の定義を広げて考えれば、当然、失業率は普段目にするものよりも高くなる。一般的に用いられる失業率(U-3)は2016年12月時点で4.7%であるのに対し、労働省から公表されている広義の失業率(U-6)は、9.2%と高い水準にある。また、過去との比較においても広義の失業率は金融危機前に比べて高い状態が続いており、確かに一般的な失業率に比べて改善が遅れている。

広義の失業率では、通常は失業者とされない潜在的失業者(働く意思があり働くことができるが、過去4週間では求職活動をしていない人)と、経済的理由によるパートタイム労働者(景気状況のために労働時間が短くなったり、フルタイムの仕事が見つからなかったなどの理由で、やむを得ずパートタイムで働いている人)を、失業者としてカウントしている。とりわけ、経済的理由によるパートタイム労働者の数は足下でも560万人程度と多数に上り(潜在的失業者は180万人程度)、広義の失業率がなかなか低下しない理由になっている。

では、なぜ経済的理由によるパートタイム労働者の減少が遅れているのであろうか。原因の1つとして指摘されているのは、オバマケア(医療保険制度改革法)による影響である。オバマケアでは、個人に保険加入を義務付けるだけでなく、企業に対しても従業員への医療保険の提供を義務付けている。週に30時間以上働くフルタイム労働者(※1)を50人以上雇っている企業は、従業員に対して医療保険を提供する義務を負い、これを守らなかった場合には罰金を科されることになっている。このため、保険料負担や罰金を逃れるために、一部の企業ではパートタイムでの雇用を増やしているとみられている。

オバマケアに関して、トランプ大統領ならびに共和党は、新たな制度に置き換えるとしており、議会では2017年に入って早速、現行制度の廃止に向けた動きが見られている。代替案については未だ明らかになっていないが、仮に企業に対する医療保険の提供義務が撤廃されることになれば、パートタイム労働者のフルタイム化が促進され、改善が遅れてきた広義の失業率の低下を加速させる可能性があろう。

もちろん、オバマケアが導入されたことで、米国における大きな社会問題である無保険者が減少したという事実を踏まえれば、オバマケアが廃止・置き換えられることによる悪影響も想定される。それでも、労働市場の改善に繋がることになれば、なにより雇用を重視するトランプ大統領にとっては喜ばしいことなのかもしれない。

(※1)雇用統計におけるフルタイム労働者は週に35時間以上の労働者であり、オバマケアにおけるフルタイム労働者とは定義が異なる。

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