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崖の上のお金持ち

2012年10月09日

経済調査部 シニアエコノミスト 近藤 智也

夏のオリンピックと同じ年、4年に1度行われる米国の大統領選挙の投票日(11月6日)まであと4週間となった(※1)。そして、“財政の崖(Fiscal Cliff)”の先端、年末まで3ヶ月を切ってしまった。

目先の米国経済を見通す上で、外患が欧州の債務問題に端を発する世界経済の減速とすれば、内憂は国内の財政問題であり、財政の崖をどう乗り越えるかが焦点だ。崖の深さはブッシュ減税と強制歳出カットで大きくなったが、突然降って湧いた“落とし穴”ではなく、かなり以前から誰の目にも見えていた崖だったのである。

崖から転落した場合、米国経済がどの程度打撃を受けるか。CBO(議会予算局)によると、金融危機のような瀕死の重傷(景気後退:1年半)ではないものの、全治半年程度のマイナス成長は避けられないと見込まれている。消費者や企業経営者、マーケットからすれば、議会にできるだけ早く転落を回避する対応を取ってもらいたいだろう。

だが、オバマ・民主党と共和党は、ブッシュ減税に関して全世帯の2%に相当する富裕層の取り扱いで対立したままであり、しかも、問題解決は膨張した財政赤字と密接にリンクする。両党とも財政赤字削減を主張しているが、その基本的な手法が異なっており、解決を一段と難しくしているといえよう。

オバマ大統領は、富裕層に対するブッシュ減税の終了、すなわち増税と歳出減によって赤字削減を目指す。一方、専ら歳出減で赤字削減を図る共和党のロムニー候補はすべての所得階層の減税継続を訴えている。幸いなことに、両者とも積極的に崖から飛び降りようとは考えていないが、実際に崖を回避する動きは選挙後になるだろう。

現行のブッシュ減税では、配当金やキャピタルゲインなど資産所得にかかる税率が大幅に低くなっており、同じ所得を稼いでも、その源泉によって負担感に逆転現象が生じる可能性がある。例えば、オバマ大統領とロムニー候補が公表した2011年の確定申告状況を比べると、現職大統領の調整後総所得は約79万ドル、納めた税金は約16万ドルであったことから実効税率は20.5%になる。

これに対して、ロムニー候補の所得は約1,370万ドルとオバマ大統領の17倍に上り、納税額は約194万ドルとオバマ大統領のそれを遥かに上回っているが(約12倍)、実効税率は14.1%とオバマ大統領よりも低い。ロムニー候補の所得構成が、給与ゼロである一方、給与よりも適用される税率が低い資産所得がそのほとんどを占めているためだ。納税上全く問題がないとしても、ロムニー候補のような超富裕層が恩恵を受けている証左となり、現在の税制の歪みを強く印象付けている。従って、自らが最も得する制度を維持しようという訴えは有権者の共感をなかなか得られないだろう。

これまで接近していた両者の支持率は党大会以降徐々に拡大傾向にあり、特にSwing stateと呼ばれる勝敗のカギを握る州における世論調査では、オバマ大統領がおおむねリードと報じられている。それ故、崖っぷちに立たされたロムニー候補は計3回予定の討論会で起死回生を図りたい。米国山岳部時間10月3日、経済やヘルスケア、エネルギー政策など国内問題をテーマにした第一回が開催されたが、執筆している現時点では、全米に生中継された討論会の世論の受け止め方は、報道を見る限り、ロムニー候補が健闘し望みをつないだようだ。今年中に保有する株式を売却しようか悩んでいたかもしれないロムニー候補は、もう少し熟慮する時間ができたとみられる。

さて、選挙といえば、日本でも“近いうちに”、“しかるべき時に”衆議院が解散されて選挙が行われるという。投票日が“11月の第1月曜日の翌日の火曜日”と明確なスケジュールがある米国に比べると、日本の場合、いつ選挙が行われるか分からず、先行きの予定が立たない。政治の一寸先は闇と言われれば致し方ないが、個人的には、政治的な駆け引きのために無駄な時間や労力を使っているとしか思えない。

また“近いうちに”コラムのページでお会いしましょう。

(※1)但し、1916年は第1次世界大戦のために、1940年と44年は第2次世界大戦のためにオリンピックは中止された。

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近藤 智也

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経済調査部
シニアエコノミスト 近藤 智也