IFRSは製造業に向かないのか
2012年09月10日
金融庁の企業会計審議会は、2012年7月に、「国際会計基準(IFRS)への対応のあり方についてのこれまでの議論(中間的論点整理)」を公表した。3年前の2009年6月にも金融庁は、「我が国における国際会計基準の取扱いに関する意見書(中間報告)」を公表している。今般、公表された中間的論点整理に対しては、まだ「中間」なのか?中間報告と中間的論点整理とは、いったい何が違うのか?と思った人も多いのではないか。
今般の中間的論点整理では、わが国がIFRSを採用するかどうかについて結論を出していない。
なぜ、わが国の議論は進まないのであろうか。大きな理由の一つとして、米国が未だIFRSをいかなる形態で導入するかということについて何も決定していないということがあげられる。
米国は、2012年に大統領選挙があるため、IFRSの導入については、大統領選挙後のSEC委員長のもとで決められるということになっている。そうだとすれば、米国の決定は、2013年以降となるので、わが国の決定も2013年以降になるというわけだ。
だだ、米国の動向さえ決まれば、わが国のIFRS導入に関して結論が出るというわけではない。
わが国では、IFRSの採用に慎重な人々の意見の中の一つに「IFRSは製造業に向かない」との指摘がある。
その理由としては、IFRSは全面公正価値会計であり、事業用資産がすべて時価評価されてしまう。そのため、IFRSを採用すると長期的な視点に基づく企業経営は困難になる。ゆえにIFRSは「ものづくり」に向かないということのようである。このような意見は、会計の専門家からは聞かれないが、会計の専門ではない有識者からは、しばしば聞かれるものである。
しかし、ここには誤解があるものと思われる。そもそも、IFRSは全面公正価値会計ではない。事業用資産に関しては、現在のわが国の会計方法と同様に取得原価で評価できる。すなわち、IFRSを採用したからといって、事業用資産が直ちに時価評価されるわけではない。さらにいえば、2005年以降欧州でIFRSが採用されているものの、IFRSの採用により欧州の製造業の業績が悪化したという話は、聞いたことがない。「IFRSは製造業に向かない」ということに関して、明確な論証はされていないのが現状なのである。
IFRSは製造業に向かないという議論があるという話をカナダ人の会計士にしたところ、「日本はまだそんな話をしているのか?欧州の製造業と日本の製造業で何が違うんだ?」と言われ、頭を抱えられてしまった。
米国の動向いかんにかかわらず、国内で結論が出せるものについては、そろそろ出す時期にきているのではないだろうか。
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金融調査部
金融調査部長 鳥毛 拓馬
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