インフレ時代の児童手当
2026年07月31日
2026年7月、米国で「トランプ口座」が始動した。2025年~2028年に生まれた新生児に対し、国から初期資金として1,000米ドル(約16万円)を給付し、運用先を米株連動の低コストETFに限定して18歳になるまで運用する仕組みだ。また、台湾でも2026年5月に新たな児童手当の構想が発表された。政府からの月額5,000台湾ドル(約25,000円)の支給のうち、6歳以降18歳までは半額の2,500台湾ドル(約12,500円)を資産運用にあてるという。両者に共通するのは、給付を一時的な消費に終わらせるのではなく、将来にむけた長期の資産形成へ振り向けようとする政策意図である。
日本でも児童手当の拡充が進むが、児童手当の使途調査では貯蓄が最上位を占めており(※1)、教育資金の準備方法は「銀行預金」が最も多い(※2)。デフレ下では預貯金は合理的な選択肢だったが、物価上昇局面では名目金額が保たれても、実質的な購買力は低下する。これからのインフレ時代において、児童手当をそのまま預貯金に置くだけでは、将来の購買力を守りにくい。
児童手当を長期投資に回し、インフレに備える家庭もあろうが、それは知識や家計余力のある世帯に限られよう。運用を個人任せにすれば、保護者の金融リテラシーや経済力が子どもの将来資金の格差に直結しかねない。米国と台湾の事例から見えてくるのは、保護者の金融リテラシーや経済力によって生じる格差を制度で補完するという発想である。あらかじめ運用先を定めて自動的に積み立てれば、投資知識の有無に関わらず、より多くの子どもが経済成長の恩恵を享受しやすくなる。
もっとも、制度を用意するだけでは十分ではない。米国のトランプ口座も、政府からの拠出を受けるには保護者による口座開設が必要である。口座開設や商品選択を保護者任せにすれば、知識や家計余力のある世帯ほど利用しやすくなる。つまり、真に支援が必要な世帯ほど、利用しにくくなる可能性もある。だからこそ重要なのは、「投資を促すこと」ではなく、「誰でも自然に利用できる仕組み」を整えることである。
図表で示したように、日本での児童手当の主な使途は「子どもの将来のための貯蓄」であり、世帯年収に関わらず最も多くを占める。年収300万円未満の世帯でも月1万円超を貯蓄に回しており、多くの家庭が児童手当を将来に備えた資金と位置付けている。こうした実態を踏まえれば、追加的な巨額財源を確保しなくても、児童手当の一部を長期の資産形成に自動的に回す仕組みを導入する余地はあろう。例えば、2027年1月に開始予定の「こどもNISA」への月1万円の自動積立である。
もちろん、児童手当は生活支援の役割も担うため、足元の生活費として利用したい世帯への配慮は欠かせない。そのため、台湾のように一部のみを積立対象とする、あるいは退出可能なオプトアウト方式を採用するなどの工夫が考えられる。重要なのは、投資を強制することではなく、自然と資産形成を始めやすい仕組みを整えることである。
インフレ時代における真の子育て支援とは、現金を配る規模の拡大にとどまらない。児童手当の一部を「こどもNISA」へ自動積立できるようにすることで、親の知識や家計余力によって生じる格差を制度で補完し、すべての子どもが成長とインフレの双方に備えられるようにするべきだ。
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- 執筆者紹介
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経済調査部
シニアエコノミスト 吉田 亮平

