企業はSBTi新基準の「継続する排出への責任」とどう向き合うか
2026年07月15日
2026年6月に国際イニシアチブSBTiが大幅改訂した企業ネットゼロ基準では、継続する排出への責任(Ongoing Emissions Responsibility: OER)という新たな考え方が示された(※1)。継続する排出とは、企業がネットゼロ(※2)に向けて自社およびバリューチェーン(VC)内の温室効果ガス(GHG)排出削減を進める中で、ネットゼロ目標達成年までの各年に発生する排出を指す。OERは、こうした排出について、削減目標の達成とは別に、追加的な気候変動対策への支援活動を通じて責任を果たす考え方である。これは、目標達成年までに積み上がる排出による気候変動への影響を抑えることを目指すとともに、気候ソリューションへの資金動員を通じて、世界全体のネットゼロ移行を後押しする狙いがある。
OERの対象となる支援活動には、VC外での排出削減、大気中からの炭素除去・貯留、その他の気候変動対策(低炭素技術の研究開発、適応・レジリエンスへの対応など)が挙げられる。このうちVC外での緩和にあたる取組み(例えば、VC外での排出削減・除去や、緩和目的の技術開発の支援)は、SBTiが従来からバリューチェーン外の緩和(Beyond Value Chain Mitigation: BVCM)として、SBTiにコミットする企業(※3)に対し即時に取組むことを促してきたものと重なる。ただし、BVCMはあくまでも推奨にとどまり、取組みの規模や、報告のあり方を企業間で比較可能な形で示す仕組みも十分ではなかった(※4)。
OERは、上記の各種支援の規模を、自社の継続する排出量と結び付けて示すものである。新基準で示された任意の認定プログラムでは、企業が責任を負う継続する排出量の割合等に応じて、企業を3段階で認定する。また、支援対象となる活動には、削減・除去効果の追加性や第三者検証、環境・社会面への配慮など、一定の信頼性を担保するための要件が設けられている。こうした支援の実績は、自社の削減目標の進捗とは区別して報告される。さらにSBTiは、2035年以降、一部企業にOERに基づく一定の対応を義務づける方向も示している。
企業には今後、ネットゼロ目標達成年に向けて、VC全体の排出削減、OERに基づく達成年までの追加的な支援、そして達成年に残る残余排出の中和を区別することが求められる。これらはいずれも将来の対応コストや外部評価に関わる。OERについては、2035年以降の制度化の方向も見据え、自社の継続する排出について、どのような考え方で追加的な気候変動対策への支援を行うのかを整理しておくことが望ましい。その上で、支援する活動の妥当性や信頼性を対外的に説明できるかが、目標達成年までの継続する排出に伴う責任を示す上で重要となる。
(※2)SBTi基準では、GHG排出を可能な限り削減し、目標達成年になお残る排出(残余排出)を、大気中からの炭素除去・貯留により中和する状態を指す。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。

- 執筆者紹介
-
金融調査部
主任研究員 依田 宏樹

