一段と進む円安 — 日米金利差との連動性低下が示すドル円相場の新局面
2026年07月08日
円安が進んでいる。ドル円レートは一時162円/ドル台に乗せ、1986年12月以来の安値を付けた。円安による経済活動への影響はプラスとマイナスの両面があり、その度合いは業種や地域などで大きく異なる。内閣府や日本銀行(日銀)のマクロモデルなどでは、円安ドル高は日本経済にネットでプラスの影響をもたらすと推計されている。
大和総研の短期マクロモデルでも同様で、直近1年間の変化(約14.5円/ドル)に相当する10%の円安ドル高は実質GDPを0.25%程度押し上げる。もっとも、円安で輸出数量が増加する効果は限定的で、インバウンド需要の増加や、株高による資産効果が主なプラス要因だ。円安の恩恵は観光関連業や、多額の金融資産を保有する高齢世帯・高所得世帯に偏在し、多くの企業や家計にとっては輸入物価高による負担の増加といったマイナス面での影響の方が目立つだろう。
さらに、企業の価格転嫁が進みやすくなっていることや、中東情勢の緊迫やトランプ米政権の高関税政策による輸出の下押し、日中関係の悪化による中国人訪日客数の減少などが円安のプラス効果を抑制しているとみられる。こうした点を考慮すると、10%の円安ドル高による直近1年間の実質GDPへの影響は▲0.14%程度だったと試算される(※1)。
円安ドル高の背景には何があるのか。一般的に日米の実質金利差で説明されることが多いが、2025年秋以降は両者の関係が薄れ、金利差が縮小傾向にある中で円安ドル高が進んでいる。これに対し、25年秋に積極財政を掲げる高市早苗政権が誕生し、財政悪化への懸念が強まったことが円安圧力をかけたとの指摘がある。
そこで日本の10年物国債利回り(長期金利)を、①期待政策金利(市場参加者が予想する今後10年間の政策金利の平均値)、②タームプレミアム(国債需給や価格変動リスク、財政懸念など)、の2つの要因に分けると、25年9月末から26年6月末までの長期金利の上昇幅(+1%pt程度)のうち、①が+0.7%pt程度、②が+0.3%pt程度だったと試算される。財政懸念の強まりなどは②に反映されるが、25年秋以降の金利上昇は①の要因の方が大きく、市場参加者による日銀の利上げ見通しの高まりがより強く反映されたとみられる。
ドル円レートと米国の実質金利との関係は直近でも安定しており、日本の金利上昇による円高圧力が限定的だったことが、日米金利差との連動性低下につながったようだ。日銀の金融政策は正常化の途上にあり、利上げを継続しているものの金利水準が物価上昇率などに比して低く、経済実態を踏まえた金利水準(中立金利)を下回っていることなどが背景にあるとみられる。
こうした見方が実態を捉えているのであれば、高水準のインフレ率によって米金利の先高観が強いうちは円安ドル高が進みやすい。一方、日銀が利上げを続けても、当面は円高基調に反転しにくい可能性がある。
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- 執筆者紹介
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経済調査部
チーフエコノミスト 神田 慶司
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