内部留保課税は資本市場にとって「善」か「悪」か
2026年05月01日
財務省「法人企業統計調査」によると、2024年度末時点での日本企業の内部留保の金額は637兆円と空前の規模に達している。日本企業の稼ぐ力が着実に高まってきた結果、内部留保も年々その増加ペースを速めている。
この膨大な内部留保に対して課税すべきだという声が、一部の政治家から上がっている。それに対して、企業経営者からは企業の税負担が重くなって経営の足かせになるから、また市場関係者からは株価にネガティブと思われるから、それぞれ反対だという意見が聞かれる。
そこで、内部留保課税が企業経営や株価にどのような影響を与えるかについて考察する。内部留保に課税される場合、企業は内部留保をできるだけ回避しようとする行動を取ると考えられる。具体的には、自社株買いや配当の増加が見込まれることになる。
実際、韓国において2015~2017年に期限付きで10%の内部留保課税が導入された時には、一時的な特別配当も含め配当性向が急上昇したという。株式市場においても、高配当株やバリュー株が上昇して平均株価の押し上げに寄与する形となった。
日本企業は、成長企業・成熟企業を問わず、利益の50~60%程度を内部留保に回すことが一般的だ。成長企業は無配で成熟企業は内部留保をほとんど行わないといった米国企業とは対照的である。その背景には、株主資本コストに対する意識の違いがある。近年、株主資本コストという概念は理解されつつあるが、実際の経営意思決定にはつながっていないケースが多い。
もし内部留保課税が導入されるとしたら、企業経営者はダイレクトに株主資本コストを認識することになり、不必要なレベルの内部留保額の圧縮に動くことになるだろう。自社株買いや配当の増額、最適資本構成を意識した経営への転換が進むことが予想される。そうなると、企業の資本効率が向上して、株式市場にポジティブな影響を与えると考えられる。
2024年度の法人税収は約17.9兆円、法人所得課税(国税+地方税)は約25兆円であった。大雑把に試算すると、企業の内部留保額に4%課税すれば、従来の法人所得課税がゼロであっても同額の税収を確保できることになる。
わが国では企業の国際競争力を維持するために、段階的に法人税率を引き下げてきたが、未だに実効税率ベースでOECD加盟国平均より8~9%ポイント高い状況にある。2026年度からは防衛特別法人税の導入により、さらにその差が広がる見通しである。
仮に1%の内部留保課税を実施して、それを財源に法人所得課税を引き下げるとしたら、ほぼOECD平均レベルの実効税率にすることができる。この場合、資本や現金などを貯め込みすぎている企業に行動変革を促すとともに、日本企業全般の税制面での国際競争力を高めることができる。
市場関係者にとって「食わず嫌い」の感があった内部留保課税であるが、制度設計次第では意外と悪くない。内部留保課税の導入を真剣に検討する価値があるのではないだろうか。
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- 執筆者紹介
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コーポレート・アドバイザリー部
主席コンサルタント 太田 達之助
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