「発明から普及まで5年」の時代に、私たちは適応できているか

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2026年04月20日

人は歳を重ねると、世の中の動きが速いと感じる傾向にあるようだ。子どもの頃は一日や一年という時間がとても長く感じられたが、大人になると一年なんてあっという間に過ぎていく。この傾向に拍車をかけるのが、最近の世の中の急激すぎる変化だ。生成AI、AIエージェント、フィジカルAIへと、毎日のように技術革新が進んでおり、それが実社会に実装・普及するスピードも加速している。

Asirvatham, Mokski, and Shleifer[2026](※1)によると、産業革命期以降、技術が「発明」(プロトタイプ作成)されてからターゲット層に広く「普及」するまでの期間が10分の1に短縮されたことを実証的に示している。19世紀には平均約50年かかっていた普及までのタイムラグが、現在では約5年にまで縮まっているのである。つまり、人々が新しい技術にじっくりと歩調を合わせて変化していくというやり方は、もはや通用しないのだ。

こうした急激な技術進歩と歩調を合わせるのが難しい点は、新しい技術が普及しても生産性が思うほど改善しないという認識にもつながってくる。生産性の改善は新しい技術が単に普及すれば実現するのではない。新しい技術は仕事の進め方や組織、企業文化と補完的な関係にあり、それらの歩調が合うことによって初めて、生産性の改善が実現する。例えば、AIが普及すると、企業は新しい付加価値の発掘に有効な、部署を超えたデータ共有が求められる。しかし、そもそも企業内でデータが分析に適した形で整備されていない、データを部署間で横断的に共有するという発想がない、といった状況に陥りやすい。この辺りの制度的要因も技術進歩のスピードに合わせて迅速に変わらないと、生産性の改善にはつながらない。

パーソル総合研究所が2026年に公表した「生成AIとはたらき方に関する実態調査」(※2)によると、生成AIを活用するとタスク処理は効率化されるものの、総労働時間はあまり減らず、効率化で余った時間は日常の定型業務に充てられていると指摘している。本来ならば、余った時間は生産性の改善がより見込める業務へ投じられるべきだが、実際はそうなっていないのだ。つまり、仕事の進め方など制度的要素も合わせて見直さないと、新しい技術を導入しても期待外れの結果に終わってしまうリスクがあることを示している。特に生成AIなど普及が急激すぎる技術ほど、制度面での変化が追いつかず、生産性改善などの期待が外れやすくなる。

急激すぎる変化は生産性だけでなく、我々の生活にも様々な影響を与える可能性がある。技術の導入だけに目を奪われるのではなく、それを活かすための制度や働き方を同時に更新できるかどうかが、これからの生産性改善の成否や我々の生活を左右する鍵となるだろう。

(※1)Asirvatham, H., E. Mokski, and A. Shleifer [2026], “GPT as a Measurement Tool,” NBER working paper 34834, February 2026.

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溝端 幹雄
執筆者紹介

政策調査部

主任研究員 溝端 幹雄