予防接種歴の見える化を主体的な医療の起点に
2026年04月06日
4月は、学校への提出書類の作成に追われる保護者が多い時期ではないだろうか。家庭調査票や健康調査票には、住所や緊急連絡先に加え、詳細な健康情報の記載が求められる。筆者自身も毎年苦戦する一人であるが、今回、予防接種歴の記入欄で接種日まで問われ、手が止まってしまった。乳幼児期のワクチンはもちろん、比較的最近の接種でさえ、おおよその時期も思い出せなかったからだ。マイナポータルではデータの保存期間が過ぎていたため表示されず、結局、紙の母子手帳を引っ張り出して一つひとつ確認することになった。
予防接種歴が求められるのは、就学期に限ったことではない。成人後や高齢期にも、就労、海外渡航、追加接種の判断、高齢者施設への入所などの際に、乳幼児期からの接種歴が問われる場面はある。必要なときに、過去すべての接種歴を容易に確認できる利便性の高い環境が求められる。
この点、厚生科学審議会の議論では、自治体が作成・保存する予防接種記録(予防接種台帳)の保存期間について、現行の「接種を行ったときから5年間」から「接種を行ったときから、被接種者が亡くなった日から5年が経過する日までの間」へ延長する方針が示されている。この見直しは、2026年6月1日の予防接種事務のデジタル化に係る改正予防接種法の施行に合わせて適用される予定である(※1)。今後は、マイナポータルを通じて生涯にわたる予防接種歴を容易に確認できるようになることに加え(※2)、未接種のワクチンの接種勧奨を受け取ったり、デジタル予診票の入力を事前に済ませたりすることも可能となる。ライフステージや年齢に応じた適切なタイミングでの接種勧奨は、接種率の向上にもつながるだろう。
何より、予防接種歴の見える化は、接種済みのワクチンや追加接種の要否を自ら把握し、対応を判断するための材料となる。こうした自身の状態を正確に確認できる仕組みは、主体的な予防・健康管理に不可欠である。
今後は、この仕組みを予防接種分野にとどめることなく、医療情報全体へと広げていくことが求められる。政府も医療DX(デジタルトランスフォーメーション)の一環として、処方歴や診療歴など様々なデータを、本人が生涯にわたり一体的に確認・活用できる環境の整備を進めている。必要な医療情報を欠けることなく正確に確認できる基盤整備は、国民・患者の主体的な医療の意思決定を支えるとともに、医療現場における診療の質の向上にもつながる。予防接種台帳の保存期間の延長が、国民・患者による主体的な医療への関与を促す契機となり、閲覧・共有可能なデータ範囲のさらなる拡大を後押しすると期待したい。
(※1)厚生労働省「予防接種事務デジタル化に係る検討状況と今後の方針」第73回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会予防接種基本方針部会 資料1(2025年11月20日)
(※2)デジタル化に伴う保存期間の見直しは、新型コロナウイルス感染症に係る特例臨時接種を除き、原則として改正予防接種法の施行日(2026年6月1日)以降の接種記録に適用される予定である。
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政策調査部
主任研究員 石橋 未来
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