資本市場に「隙」を見せる事のリスクとその埋め方
2026年04月01日
インターネットを利用したオンライントレードが日本で開始されてから、今日で30年になる。今では、パソコンやスマートフォンによる証券取引は「当たり前」になった。また、NISAや確定拠出年金、iDeCoといった制度的な支援もあり、株式や投資信託などの金融商品の売買は、一般投資家にとって身近になっている。
こうしたテクノロジーの進化は、一般投資家だけではなく、機関投資家・証券会社・取引所といった市場参加者の関係性に大きく影響を及ぼした。特に米国での大量・高速処理と低レイテンシーの環境を前提とした処理は、取引所、証券会社や投資家の環境を大きく変えるとともに、HFT(High Frequency Trading)をはじめとする技術ドリブンの新たな投資家を生み出した。当時、米国で技術調査をしていたのだが、新技術や新手法が短期間で導入される事で市場参加者が大きく入れ替わる状況に、「取れる裁定は誰かが取る」という米国資本市場のダイナミズムを強く感じた。
こうした環境変化は、新たな技術を起点にトレーディング環境にのみ起こったものだけない。とりわけ日本ではここ10年ほどの制度・規制等の導入により、ガバナンス改善を促がされ、企業価値向上と株価への反映が「重要なテーマ」となった。これにより、上場企業や投資家の「動きかた」も大きく変化した。上場企業が本来の企業価値と株価に「合理的に解消可能な差」が存在する場合、投資家が積極的に経営に介入していくといった事態も発生している。つまり、「資本市場目線で隙があれば、誰かがその裁定を取る」という、ある種の見方をすれば当然の状況が発生している。それを踏まえて活動するアクティビストを含めた投資家、また企業に対する評価も今までとは大きく変わってきている。
企業価値の源泉は「保有現預金(保有資本)」ではなく「資本を使って将来に亘ってどの程度キャッシュを創出する力があるか」である。つまり、ビジネスを行う上で保有資本が必要十分である事、それに見合ったキャッシュを創出できる力がある事を投資家に評価してもらう必要がある。それができなければ、時価総額が資産価値を上回れない、いわゆる「PBR1倍以下」の状況も生まれてしまう。むしろ、蓄えた資金を成長に繋げられない企業に対しては、アクティビストなどの投資家は還元を求め、また経営陣の入れ替えを提案し、PEファンドは非上場化を勧める。このように資本コストに見合った成長戦略を実現できない上場企業の経営者に対し、資本市場からの退出を求める圧力が強まっている。
もっとも、こういった仕組みが常にあるべき姿で機能しているわけではない。経営者の中には、「資本市場への見せかけ」のために粉飾決算などの不祥事をひき起こす例も少なからず存在する。一方で、「退出を求める」側も、短期的な利益にこだわり、企業の中長期的な成長戦略を後押しできない例も散見される。資本市場のルールから生まれた「隙」は、必ずしもうまく埋まるようにはなっていない。
そう考えると、上場企業に一番重要な事は、資本市場目線からの圧力に正々堂々と向き合い、隙を見せない事であろう。それは、市場に示した成長戦略を着実に実行するとともに、想定外の事象や問題が発生した場合でも状況に速やかに対処し、その状況を適切に市場へ開示していく事である。場合によっては、企業規模や資本の縮小をも厭わず、キャッシュを生み出せる体制へと転換していく事も求められる。こういった「資本市場目線で当たり前とされる行動」を真摯に進める事こそが重要である。そのための基軸となるのは、取締役や監査役を中心とした企業体としてのガバナンス体制の確立と、それを支える企業文化の醸成である事は間違いないだろう。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。

- 執筆者紹介
-
コーポレート・アドバイザリー部
主席コンサルタント 中島 尚紀

