中長期試算では見えない産業政策の財政への影響とは?
2026年03月30日
高市早苗政権は国内投資の促進を掲げている。政府の日本成長戦略会議では、2025年11月に「危機管理投資・成長投資」の対象として17の戦略分野が公表された。2026年3月に同会議に提出された「戦略17分野における『主要な製品・技術等』」や「先行して検討を進めている主要な製品・技術等の官民投資ロードマップ素案」では、より具体的な計画が示された。
こうした産業政策の実施に当たっては、経済成長だけではなく、財政面への影響も重要な論点となる。規制改革のように支出を伴わない施策もあるが、国内投資の促進には補助金や減税、出資や融資など、一定の財政関与が必要となる局面も多いだろう。そのため、政府が示す「中長期の経済財政に関する試算」(中長期試算)における基礎的財政収支(PB)や公債等残高が、引き続き注目される。高市首相も産業政策の経済や財政への影響を中長期試算で示すよう関係閣僚に指示した。
しかし、中長期試算では、産業政策に伴う財政への影響を必ずしも網羅的には把握できない。同試算では、国民経済計算(SNA)の会計基準に基づき、国や地方のPBが算出されるが、SNAでは出資や融資といった金融取引は支出とみなされず、PBには反映されないためだ。
また、政府が産業政策の財源として国債を発行したとしても、その全てが中長期試算における債務として計上されるわけではない点にも留意が必要だ。中長期試算で示される「公債等残高」は、SNA上の国や地方の債務で、かつ税財源と直接的に結びつくものに限定されている。このため、財政投融資特別会計(SNAでは公的金融機関に分類される)が発行する財投債は、金融市場では一般的な国債と区別されずに取引されているにもかかわらず、中長期試算の公債等残高には計上されない。
ただし、このような債務が将来にわたって問題にならないとは限らない。投融資先から十分な回収ができなければ、特別会計などの債務が最終的に一般会計に引き継がれる可能性がある。過去には、日本国有鉄道清算事業団などの債務が国に承継され、当初はSNA上で国の債務として認識されていなかったものが、新たな財政負担として計上された例もある。
中長期試算に産業政策に関わる全ての財政的影響が反映されないのは、SNAの会計ルールに基づくものであり、政府が恣意的に財政状況を良く見せようとしているわけではないだろう。しかし、産業政策の規模が拡大する中で、財政の持続可能性を真摯に考えるのであれば、中長期試算に示されたPBや公債等残高を「答え」としてそのまま受け取るのではなく、その算出方法や計上範囲を踏まえたうえで評価することが重要となる。
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経済調査部
経済調査部長 末吉 孝行

