東京23区では30代子育て世帯の年収中央値が1,000万円に迫る

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2023年10月13日

近年、東京23区では、30代子育て世帯(※1)の世帯年収が急激に上昇し、中央値が1,000万円に迫っている。

2017年から2022年にかけて、全国的に子育て世帯の世帯年収は上昇しているが、年代で区切ると30代が最も上昇率が高い。保育所の待機児童問題が解消に向かい、育休制度が整備されることにより、女性が子どもを持っても正規雇用で働き続けられるようになることで、前の世代と比べて世帯収入が大きく上昇しているのだ。

その傾向が最も顕著だったのが東京23区だ。2017年時点では、東京23区は待機児童が5,665人と特に多く、全国の待機児童数の2割以上を占めていた。しかし、東京23区の保育所の増設ペースは速く、5年間で保育サービス利用児童数は19.6%増加した(全国は+7.2%)。これにより、2022年には、東京23区内の待機児童は32人となった(全国は2,944人)(※2)。

2017年時点では、東京23区はどの年齢でも子育て世帯の共働き率が全国平均より低い地域だった。しかし、その後の5年間の共働き率の上昇は30代で顕著で(58.4%→74.8%)、2022年時点では、30代に限れば、東京23区の共働き率は全国平均(72.4%)を上回っている。

この結果、東京23区の30代子育て世帯の世帯年収の中央値は、2017年の799万円から2022年の986万円へと23.4%も上昇した。同じ30代の全国平均(+13.2%)や、東京23区の40代(+10.1%)や50代(+9.1%)の子育て世帯でも世帯年収の中央値は上昇しているが、群を抜いている。

ただし、これだけ世帯年収が伸びている東京23区でも、出生率は低下が続いており(2017年:1.20、2021年:1.09、2022年は未公表)、しかもその水準は全国平均(2017年:1.42、2021年:1.30、2022年:1.26)よりずいぶんと低い(※3)。

共働きのまま子育てに入ることができ、当面の世帯年収を確保できていても、それが持続可能でなければ、もう1人、子どもを持ちたいと考えにくいだろう。当社の調査では、民間企業に勤める健康保険の「被保険者女性」の出生率は、女性の就業継続率と強い相関関係があった。(※4)

保育所の問題をクリアしても、親たちには次なる「小1の壁」が立ちふさがっている。小学生の日中の居場所である「放課後児童クラブ」には、全国で15,180人の待機児童がいて、うち15.8%の2,405人を東京23区が占める。(※5)

政府は「こども未来戦略方針」(2023年6月13日閣議決定)にて、「小1の壁」打破に向けた「放課後児童クラブ」の量・質の拡充を掲げているが、特に待機児童の多い東京23区は対策を急ぐ必要があるだろう。

30代子育て世帯の世帯年収分布

(※1)妻が30代(40代、50代)の「夫婦と子どもから成る世帯」を30代(40代、50代)子育て世帯とした。本稿中、特に記載のないデータは総務省「就業構造基本調査」による。
(※2)厚生労働省「保育所等関連状況取りまとめ」、東京都「都内の保育サービスの状況について」による4月1日現在の値。
(※3)厚生労働省「人口動態調査」、東京都「東京都人口動態統計年報」による。
(※4)是枝俊悟・佐藤光・和田恵・石川清香「『次元の異なる少子化対策』として何を実施すべきか」(大和総研レポート、2023年2月27日)参照。
(※5)厚生労働省「令和4年(2022年)放課後児童健全育成事業(放課後児童クラブ)の実施状況」、東京都「東京都 放課後児童健全育成事業(学童クラブ事業)実施状況」による2022年5月1日現在の値。

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是枝 俊悟
執筆者紹介

金融調査部

主任研究員 是枝 俊悟