パッシブ運用隆盛時代のIR・エンゲージメントの在り方
2026年03月27日
先日、企業のIR(Investor Relations)担当者とのミーティングのなかで、「パッシブ投資家はインデックス通りに投資対象を決めることを考えると、対話をすることで自社への投資が増えるわけでもない。対話する意義はどこにあるのか」という質問を受けることがあった。確かに、日本の上場企業全体でみると、パッシブ投資による持株比率がアクティブ投資を上回ったという推計(※1)もある中で、そのような疑問を持つことは不思議ではない。
IRに期待される役割は、教科書的には、「投資家と企業との情報の非対称性を解消することで企業価値の適正化に努めること」と整理されることが過去は多かったのではないか。その文脈では、資本コストが抑制され、資金調達が円滑に行われる環境を作ることがIRの目的とされていた。
しかし、これではいくつかの大事な点が見落とされているのではないだろうか。まずは、パッシブ運用が隆盛ではあるものの、パッシブ運用専業の運用会社は極めて稀ということである。多くの大手運用会社の場合、投資判断を行うアナリストやファンドマネジャーが所属する部署に加えて、近年ではESG課題を中心に情報収集や対話を行う責任投資部門が設けられている。それらの運用会社のエンゲージメントでは、アナリストやファンドマネジャーと責任投資部門のESGアナリストが連携をして企業と対話を行っている。仮に対話の場にESGアナリストしかいないことがあったとしても、ファンドマネジャー等に対話内容については共有され、投資判断に反映されると考えるべきであろう。
次にIRは投資家を対象にした単なる広報活動ではなく、投資家との双方向のコミュニケーションであるということである。投資家は、個々の事業への理解については、企業の経営者や社員の方々に及ばないことは当然であるが、同業他社の動向やグローバルのサステナビリティに関する規制や情報開示の動向などについては、多くの情報を有している。投資家との対話は、投資家からの新たな気づきを得る場として捉えるべきであろう。社内の常識が社会の非常識というケースも少なくないのではないか。近年、学術研究に加えて、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)や多くの運用会社でも、エンゲージメントがどのような効果を生んでいるのかという実証分析を行っているが、それらの分析では、投資家との対話が企業の行動変容を促し、独立社外取締役の人数や脱炭素目標の設定の増加などにもつながっているという結果も示されている。これは企業と投資家の対話が両者の情報の非対称性の解消を促すという効果を大きく上回る効果を生んでいることを意味しており、得られた気づきを企業経営に反映することの重要性を示している。
最後にIRとSR(Shareholder Relations)は不可分だということである。日頃から投資家と積極的に対話を行うことで相互理解を深めていれば、アクティビストなどから株主提案を受けた際にも、会社側の主張に耳を傾けてくれることもあろう。また、形式的な議決権行使を回避するためにも日頃から対話は重要である。
(※1)明田雅昭「日本株式市場のパッシブ化と議決権行使への潜在的影響」(証券レビュー第64巻12号、2024年12月)
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調査本部
フェロー兼エグゼクティブ・サステナビリティ・アドバイザー 塩村 賢史

