中国の戦略新興産業の成功要因を探る

~「新・三種の神器」を参照事例に~

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2026年06月01日

  • コーポレート・アドバイザリー部 主任コンサルタント 張 暁光

中国の戦略新興産業(※1)は、質・量の両面において世界的なプレゼンスを高めている。5月6日、米国の著名な科学技術系シンクタンクである情報技術・イノベーション財団(ITIF)(※2)が発表した報告書(※3)によれば、調査対象となった10の先端産業において、中国の生産高は世界全体の約4分の1を占め、7業種で世界をリードしている。近年、中国でいわゆる輸出「新・三種の神器」(電気自動車、リチウム電池、太陽電池。以下「新三種産業」という)と呼ばれる分野にも表れており、同産業はその代表例である。
本文では、「新三種産業」の成功モデルに関連する2大中核要因について、新構造経済学(※4)の視点を踏まえて考察する。新構造経済学の核心的な論理は、一国の産業が成功するためには、①自国の要素賦存に基づく比較優位に適合すると同時に、②政府が適切に誘導しインフラ整備や制度整備を進めて市場のボトルネックを解消し、潜在的な比較優位を現実の競争優位に転換することが重要である点にある。この理論に基づけば、中国の新三種産業が成功した主たる二つの要因は以下の通りである。

一、自国の要素賦存に基づく比較優位の最大限活用による規模・コスト優位の確立
新構造経済学では、労働力・資本・土地・インフラに加え、完成度の高い産業チェーンといった要素賦存構造が、産業競争力の基盤であるとされる。元々「新三種産業」の黎明期においては、膨大な熟練労働者と厚いエンジニア層が存在し、人件費も欧米諸国の5分の1~3分の1程度に抑えられていた。このため、リチウム電池組み立てやシリコンウエハー加工など、労働集約性と中程度の資本投入を要する産業に適していた。その後の高速成長が高い貯蓄率に繋がり、それを活用して豊富な産業資本が形成され、太陽光発電、リチウム電池、EVの生産ラインへの大規模投資が可能となり、急速に産業の規模経済が実現した。さらに、巨大な国内市場が試行錯誤や技術改良、コスト低減を支え、鉱石→材料→電池セル→完成車/発電所→運用保守に至る一貫したサプライチェーンが構築された。その結果、世界的なコスト優位と生産能力の優位性が確立された。これは、中国の資本、人的資源、産業補完関係といった要素賦存に適合し、規模とコストという比較優位へと転換した事例である。

二、政府による能動的な誘導と市場補完を通じた産業高度化
社会主義市場経済の基本は、「効率的な市場」と「能動的な政府」の組み合わせにある。政府は市場に代替するのではなく、市場の欠点を補完し、外部性を是正しつつ、ハード・ソフト両面のインフラ整備を担う。中国では2010年に戦略新興産業政策(※5)を定めて以降、第12次から第15次五カ年計画に至るまで一貫した政策方針が維持され、企業が長期視点で研究開発や設備投資を行える環境が整備されてきた。政府は産業計画、補助金政策、カーボンニュートラル目標、新エネルギー普及政策などを通じて、発展の方向を明確に示し、資本と人材の持続的な投入を誘導した。とりわけ、新エネルギー産業の初期段階における研究開発費負担や、長期の投資回収期間、需要の不確実性といった市場の欠点を補完する役割を果たした。
さらに、充電インフラ、電力網の整備、再エネ接続システムなどのハードインフラに加え、業界基準、輸出管理、知的財産制度といったソフト面の整備を進め、研究開発から量産、国内普及、輸出に至る全工程のボトルネックが解消された。これにより、政策誘導と市場競争を通じて企業の技術革新が進み、「中国製造」から「中国創造」への転換が促進された。結果として、新三種産業は国内優位産業から世界をけん引する産業へと成長した。もっとも、戦略的新興産業の担い手として国有企業の役割が大きいことから、場合によっては民間企業との競争条件の公平性が課題となる側面も否定できない。
以上のように、「新三種産業」の成功は、要素賦存に基づく比較優位を出発点に、「市場メカニズム」と「政府の適切な介入」を組み合わせることで、産業集積とグローバルな競争優位を実現したプロセスとして整理できるのではないだろうか。

(※1)中国国家統計局の定義による戦略的新興産業とは、重大な技術的ブレイクスルーおよび重要な発展ニーズを基盤とし、経済社会全体および長期的発展をけん引・主導する役割を担う、知識・技術集約型で資源消費が少なく、高い成長潜在力と優れた総合効果を有する先進的産業を指す。
同統計局は『工業分野戦略的新興産業分類目録(2023年)』において、工業分野の戦略的新興産業を、次世代情報技術産業、先端装備製造産業、新素材産業、バイオ産業、新エネルギー自動車産業、新エネルギー産業、省エネ・環境保護産業、航空宇宙産業、海洋装備産業の9大分野に区分している。

(※2)Information Technology and Innovation Foundationの略

(※4)新構造経済学は、経済学者ジャスティン・イーフー・リン(前世界銀行チーフエコノミスト兼上級副総裁、現・北京大学国家発展研究院教授)が提唱した開発経済学の理論として位置付けられる。
本理論は、発展途上国が自国の要素賦存に基づく比較優位を有する産業を発展させるとともに、「効果的な市場」と「積極的な政府」の相乗効果を通じて経済の構造転換と高度化を推進し、産業技術、インフラ、制度の動的進化に着目すべきであるとするものである。

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張 暁光
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