米国:原油高でも「Drill, Baby, Drill」ではなく「Drill, Maybe, Drill」?

RSS

2026年03月25日

米国とイランの間の武力対立を契機に、原油価格の高騰が続いている。エネルギー価格の上昇は一般に景気の下押し要因だが、ドナルド・トランプ大統領はこれに対し、「原油価格の上昇は米国の利益だ」との見方を示している。 その背景には、2000年代半ば以降のシェール革命がある。かつて原油の純輸入国だった米国は、いまや世界最大の産油国へと転じた。こうした構造変化により、原油価格高騰に伴う悪影響は、過去に比べて緩和される可能性がある。とりわけ、トランプ大統領は「Drill, Baby, Drill(掘って、掘って、掘りまくれ)」というスローガンを掲げ、化石燃料の増産によってエネルギー安全保障を強めようとしている。これは原油価格高騰の恩恵も享受する戦略といえるだろう。

しかし、現実はそれほど単純ではない。 最大の問題は、原油の「質」と「設備」のミスマッチだ。米国の精製施設は、歴史的に中東や中南米から輸入される重質油の処理に最適化されてきた。一方、シェール革命で増加した米国産原油の多くは軽質油だ。このため米国では、軽質なシェールオイルを輸出する一方、国内の精製設備を稼働させるために重質油を輸入するという、やや歪な構造が続いている。では、このミスマッチを解消するための設備投資が進むのか。「Drill, Baby, Drill」の下、一部では実際に大型投資の動きも見られる。例えば、トランプ政権は、テキサス州ブラウンズビル港における新規精製プロジェクト「アメリカ・ファースト・リファイニング(AFR)」を打ち出している。インドの財閥であるリライアンス・インダストリーズによる大型投資が見込まれており、減税政策や金融緩和の追い風もあって、投資加速が期待される局面ではある。

もっとも、こうした投資が広がりを見せるかについては、慎重にみる必要がある。地政学リスクが低下すれば、原油価格は下落に転じる可能性がある。原油価格の低下局面で、大型かつ長期の投資を決断するハードルは高い。また、精製施設の新設には数年単位の時間を要するが、その頃には政策環境が大きく変わっている可能性がある。ジョー・バイデン前政権下では気候変動対策の一環でクリーンエネルギーが推進され、原油価格が上昇する局面でも化石燃料の精製に関連した鉱工業生産は力強さを欠いていた(図表参照)。エネルギー政策は政権によって大きく振れる領域であり、政策を巡る不確実性は企業の投資判断を制約するだろう。仮にトランプ大統領の任期満了後も、共和党政権が継続すれば、「Drill, Baby, Drill」が継続する可能性はある。しかし、足元では、トランプ大統領の支持率は低水準にあり、11月の中間選挙に向けて共和党の劣勢も報道されている。政策の持続性が担保されない限り、エネルギー企業が相次いで大規模な設備投資に踏み切るとは考えにくい。

「Drill, Baby, Drill」という威勢の良い掛け声とは裏腹に、精製インフラとの整合性や、価格の持続性、そして政策の一貫性という観点で見れば、増産のハードルは高い。「Drill, Baby, Drill」ではなく、「Drill, Maybe, Drill(掘るかも、まあ掘るかもね)」という多少の投資増にとどまるというのが、米国の現実といえるだろう。その結果、米国における原油高に伴う恩恵は限定的と考えられ、むしろ消費者の痛み、つまりは景気への逆風に注意を向けるべきだろう。

WTI先物と鉱工業生産(原油・石炭)

このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。

矢作 大祐
執筆者紹介

経済調査部

主任研究員 矢作 大祐