IEEPA関税の無効判決と中間選挙、そして‘SAVE America Act’
2026年03月06日
2026年2月20日は、第二次トランプ政権の代名詞ともいえる、国際緊急経済権限法(IEEPA) に基づく関税(IEEPA関税)が連邦最高裁判所の無効判決を受けるという、特大のニュースで埋め尽くされた(※1)。
ここで俄然気になるのが、発効以来およそ1,750億ドル(※2)にのぼるという、IEEPA関税の徴収額の行方である。判決では、その点に一切触れていない。ただ、無効の手法に基づいて徴収された関税なので、返金(リファンド)されて然るべきである。当のベッセント財務長官も、昨年9月の時点では、そのような認識を示していた(※3)。
それでは、誰にリファンドすべきなのか。ニューヨーク連邦準備銀行の調査によると、関税のおよそ90%は、米国の企業と消費者が負担している(※4)。
とすれば、このリファンド対応は、11月の中間選挙の行方を左右するかもしれない(※5)。スムーズにリファンドが進めば、共和党議員に有利に働くだろう。
しかし、政権の反応を見るに、自主的にリファンドを行うことはなさそうである。トランプ大統領は、無効判決を受けた日、記者からリファンドの是非について問われると、「訴訟で決着するまでに5年はかかるだろう」と答えている(※6)。ベッセント財務長官も、昨年9月の発言とは打って変わって、リファンドに消極的な姿勢を示している(※7)。
こうした姿勢は、昨年同時期よりも12%ポイント低下し、36%に低迷しているトランプ大統領の支持率(※8)の改善に資するとは思えない。
こうした政権への逆風のさなか、いま全米を揺るがしつつある話題が、連邦選挙における投票資格の厳格化に向けた議会の動きである。
2月11日、米国連邦議会下院は、いわゆる‘SAVE America Act’を可決した(※9)。この法案は、連邦選挙に際して、有権者登録時の市民権証明(出生証明書、パスポート等)、投票時の写真付き身分証明書の提示、等を定めている。法案の目的は、非市民による不正投票の防止だという。
この法案が可決された暁には、これまで問題なく投票ができていた米国人のうち数百万人が、有権者登録ができなくなる懸念があるという(※10)。というのも、まず、米国憲法は連邦選挙の有権者資格を定める権限を州に委ねており、かつ有権者登録に際して市民権証明を求めている州が全50州中8州しかない。そして、有権者全体の約9%、2,130万人が、市民権を証明する書類を持っていない、または容易に入手できないとされている(※11)。
トランプ大統領は、米国では非市民による不正投票が蔓延しているとして、上院に‘SAVE America Act’の可決を迫っている(※12)。しかし、そのような証拠は一切示されていない。そのため、中間選挙に向けて、有権者の数を減らすことが真の目的ではないかという批判がある(※13)。
3月から中間選挙の予備選が順次始まるが、‘SAVE America Act’の動向にも注視すべきである。
(※1)‘No. 24–1287. Argued November 5, 2025—Decided February 20, 2026’(SUPREME COURT OF THE UNITED STATES、2026/2/20)
(※2)‘Supreme Court Tariff Ruling: IEEPA Revenue and Potential Refunds’(Penn Wharton Budget Model、2026/2/20)
(※3)‘Meet the Press — September 7, 2025’(NBC NEWS、2025/9/7)
(※4)‘Who Is Paying for the 2025 U.S. Tariffs?’(Federal Reserve Bank of New York、2026/2/12)
(※5)‘Sore Losers at the Supreme Court: The Government Doesn’t Want to Pay Back Unlawful Tariff Money After All’(CATO INSTITUTE、2026/2/26)
(※6)‘Press Conference: Donald Trump Addresses the Supreme Court Tariff Decision - February 20, 2026’(Roll Call、2026/2/20)
(※7)‘Bessent dodges questions about tariff refunds’(THE HILL、2026/2/22)
(※8)‘Trump’s approval rating with independents hits a new low ahead of the State of the Union’(CNN 、2026/2/23)
(※9)本稿執筆時点(2月27日)では、上院による審議は開始されていない。
(※10)‘League of Women Voters Denounces House Passage of Anti-Voter SAVE America Act’(League of Women Voters、2026/2/11)
(※11)‘‘We are turning the clock back’:Rep. Clyburn says of SAVE Act on Gavin Newsom's podcast’(ABC News、2026/2/19)
(※12)‘Speech: Donald Trump Delivers the State of the Union Address - February 24, 2026’(Roll Call、2026/2/24)
(※13)‘LDF Denounces House Passage of SAVE America Act as Dangerous and Discriminatory’(Legal Defense Fund、2026/2/12)
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- 執筆者紹介
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ニューヨークリサーチセンター
主任研究員(NY駐在) 鈴木 利光

