PERはなぜ上がらない?──市場が見ているのは「価値創造ストーリー」が描く未来
2026年03月02日
2015年にコーポレートガバナンス・コードが適用開始され、およそ10年が経過した。第2次安倍政権が誕生した2012年12月以前、日本経済は長期低迷の最中にあり、日経平均株価は1万円を割り込む水準で推移していた。このような状況下で打ち出されたアベノミクスの成長戦略において、コーポレートガバナンス・コードは制定された。
その後日本経済は復活を遂げ、日経平均株価は本コラム執筆時点において5万9千円を超える水準にまで上昇した。この経済の復活や株高を支える背景のひとつとして、コーポレートガバナンスの改善を挙げることができるだろう。この10年にわたる改善の積み重ねが、投資家の信頼を着実に高めてきた。
一方で、見方を変えると、ガバナンスはもはや会社経営において当然備えるべき経営基盤である。今後もその優劣は投資家にとって重要な投資判断材料となるが、ガバナンスが一定程度整備されてきた状況下においては、会社がどのように成長し、企業価値を持続的に高めていくのか、という経営戦略の内容とその実現力がより重要な評価軸になる。
2025年4月に経済産業省から「『稼ぐ力』を強化する取締役会5原則」および関連ガイダンス(※1)が公表された。背景には、コーポレートガバナンス・コード適用開始後10年が経過するなかで、一定の成果を上げ「稼ぐ力」を取り戻した会社が現れる一方、なお十分とは言えず、さらなる強化が求められる会社が数多く存在しているという現実がある。
この取締役会5原則の原則1に示されている「価値創造ストーリーの構築」について改めて注目したい。
株価は、会社の将来に対する期待値によって高まる。「価値創造ストーリー」は、この期待値を投資家に伝える重要な役割を担うものである。
さて、あなたは自社の価値創造ストーリーを見たことがあるだろうか。
現状、多くの会社では、統合報告書の枠組みに沿い、他社事例を参考にしながら価値創造ストーリーを作成している。将来への期待値が株価に十分織り込まれていないと感じている会社は、自社ならではの強みや競争優位性が示され、会社の将来性を説得力をもって伝えるストーリーが描かれているか、一度確認していただきたい。
社長や取締役をはじめとする経営陣は胸を張ってこの価値創造ストーリーを語り、自社の将来への期待値を高められるだろうか。
貴社の従業員が理解し、その語り部になることができるだろうか。
家族や友人、子供たちに説明して「すごい会社だね!」とその目を輝かせることができるだろうか。
このような視点からチェックしてみることは、本当に伝えるべき「会社の未来」が描けているかを確認するうえで有効なヒントとなる。
価値創造ストーリーとは、会社が「何をしているか」ではなく、「なぜ将来に期待できるのか」を市場に説明し、未来を語るための会社の顔となる。それを明確に打ち出せたとき、初めて市場からの期待値としてPERは高まり、会社は正しく評価される。
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- 執筆者紹介
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マネジメントコンサルティング部
主席コンサルタント 弘中 秀之
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