わかりやすい表現で、企業の「伝える力」を高めよう

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2026年06月15日

2023年3月末に東京証券取引所が「資本コストと株価を意識した経営の実現に向けた対応」を要請してから3年が経過した。この間に、株主還元の方針を変更する等の開示を行った企業は950社ある(開示件数は1,111件。適時開示資料より大和総研集計)。国内には約3,850社の上場企業があることを踏まえると、約4社に1社が開示したことになる。投資家とのコミュニケーションを向上させる意味でも、良い傾向だと考える。

私は、このような開示資料を読み、方針の変更を分類したり、その時々の変更の特徴を調べることを仕事の一つにしている。この種の作業は、いずれ生成AIに代替される可能性があるが、現時点では同様の分析レポートは多くないように見受けられる。

こうした情報収集・分析において生成AIの活用が進んでいないことの理由のひとつとして、日本語の表現の曖昧さが影響している可能性がある。言い換えると、「開示内容の書き方が、読み手によって異なる解釈ができてしまう余地がある」のかもしれない。

例えば、近年、採用数が増えている「累進配当」がある。これは、今期以降の1株あたり年間配当金の水準を、直近の実績と同水準以上とする配当方針である。開示資料のタイトルに「累進配当の導入」だとか、本文に「減配しない方針」等の情報があれば、累進配当の導入があったと容易にわかる。

一方で、判断が難しい表現も少なくない。「利益成長を通じた累進的な配当を行う」の記述では、利益が成長しない場合に減配が含まれるのかが不明確である。また、「累進的に配当性向30%を目指す」では、「累進的」が配当額を指すのか配当性向を指すのか判別しにくい。さらに、「配当性向30%を目途に、累進配当を目指す」では、累進配当が努力目標なのかコミットメントなのかが曖昧であり、「1株あたり50円を起点とする累進配当」では、今期は前期比10円増配(60円)だが、その翌期は5円減配(55円)もあり得るのかといった解釈の可能性が残る(数値はいずれも例)。

これらの解釈上の揺れは、読み手の受け止め方の違いという側面もあるだろう。しかし、同様の受け止め方をする投資家が少なくないとすれば、見過ごすことのできない問題だ。誤解した人には失望感が生じ、この企業が今後発信するメッセージの解釈に不安を覚えてしまうだろう。せっかく企業がコミュニケーションを活性化しようとしているのに、もったいないことである。このような事態を避けるために、発信者である企業は、伝えたいメッセージが誰からも間違いなく解釈されるような表現を第一に考えて、資料を作成することが大事だろう。「わかりやすい表現」が肝要だ。

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中村 昌宏
執筆者紹介

金融調査部

主席研究員 中村 昌宏