中国の「低空経済」発展への期待
2025年06月18日
中国における低空空域を活用した経済形態(低空経済(※1))は、2021年に初めて国家計画へ明記されて以降、中央政府と地方政府による産業政策の強化・充実を進めており、現在では「新たな質の生産力」(※2)を代表する一つとなっている。
一方で、「産業政策主導の戦略的新興産業の雲行きは怪しく、竜頭蛇尾に終わるのでは」との懸念も一部に生じている。本稿では、近年の中国において発展が顕著な戦略的新興産業(EVを代表とする次世代自動車、AI、ロボットなど)を参考として、三つの視点から低空経済の現状と将来性を考察する。
① 中央政府と地方政府の強力なリード
中央政府の産業政策の展開を見ると、強力かつスピード感のある動きがうかがえる。2021年の「国家総合立体交通網計画要綱(2021~2050年)」において低空経済発展の基本枠組みを確立し、2023年12月公布の「国家空域基礎分類方法」では戦後最大の空域開放改革として、標高3,000メートル以下を低空経済活動区域と規定した。初回モデル都市には、合肥・杭州・深圳・蘇州・成都・重慶の六都市が指定されている。さらに2024年・2025年と連続して、政府活動報告に低空経済の政策を盛り込んでいる点も見逃せない。
中央政府の姿勢を受け、各地方政府は低空経済を地域産業高度化の機会と位置付け、2025年5月時点で全国三十省 が地方政府活動報告に記載している。地方政府は、財政支援から無人機空港整備まで、政策実行のプラットフォームとしての役割を果たしており、産業調整、地域連携、財政支援を通じて、サプライチェーンの強化を支えている。
② 潜在市場規模
低空経済から波及する潜在市場は、以下の三分野に分類される。
- 川上分野:原材料・コア部品(航空用電池、航法装置など)
- 川中分野:低空航空機(ドローン・eVTOL製造)、飛行サービス拠点、航空管制施設
- 川下分野:応用シーン(物流・農林水産・都市航空交通(UAM)・救難・測量など)
「中国低空経済発展研究報告(2024)」及び中国民用航空局データによると、2024年産業規模は6,700億元(約14兆円超)であり、2025年には1.5兆元(約31.8兆円)、2035年には3.5兆元(約74.1兆円)(※3)に成長すると予測されている。政策誘導により、大規模市場への資源集中を促進され、大幅な市場拡大効果が見込まれている。
③ 主要参加企業
主要参加企業はEV次世代自動車・航空関連企業を中心とし、情報通信企業を含む産業チェーン全体では約5万社に及ぶ。無人機設計製造企業は約2,000社となり、業界トップのDJI(大疆創新)は世界民生用/産業用ドローン市場で80%のシェアを占めている。
eVTOL分野での製造企業は2025年5月時点で41社となった。EHang(億航智能)は世界で初めて「三証」(型式証明証(TC)・生産合格証(PC)・耐空証明(AC))を取得しており、他社も2026年までに順次取得する見込みとなっている。
以上、中央政府と地方政府、潜在市場規模、主要参加市場の視点から低空経済発展を考察した。2025年現在、中国の高速鉄道・高速道路営業距離はそれぞれ5万km・19万kmと世界最長を維持している。今後は地上開発に加え、空域(特に低空域)の交通潜在力開発が推進される見込みである。2024年は「中国低空経済元年」と位置付けられているが、既存新興産業の発展ロジックを踏まえると、不確実性や曲折はあるものの、強力な産業政策・堅固な産業基盤・広範な市場応用性を背景に、「新たな質の生産力」の成長エンジンとして極めて高い可能性を有しているといえる。
中国低空経済の持続的な発展に向けては、制度的課題(低空関連法規の整備、空域開放の行政効率化)など、技術的課題(航空用電池の航続距離、航法通信技術の安定性)など、市場認知課題(消費者の生活習慣、飛行安全・価格への懸念など)への対応が必要となろう。
- (※3)何れも中国人民銀行2024年度平均為替レートである。
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主任コンサルタント 張 暁光