“大規模で美しい”軍事パレードはピーナッツか、それとも特大のプレゼントか

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2025年06月04日

6月14日に米国の首都ワシントンDCで軍事パレードが開催される。1775年6月14日、第2次大陸会議において、イギリスからの独立革命を戦うために植民地軍(大陸軍)が結成された。それから、独立を承認するパリ条約締結まで8年超を要した。今年はアメリカ陸軍創設250周年という節目の年にあたり、ホワイトハウスは“盛大な軍事パレードを開催し、米軍を称える”と発表したが、偶然にも、同日はトランプ大統領の79歳の誕生日でもあり、双方にとって特大のプレゼントというところか。

首都における軍事パレードは湾岸戦争終結を記念した1991年以来、34年ぶりとなる。報道によると、トランプ大統領一期目の2018年11月にも、祝日ベテランズ・デーに合わせて軍事パレードが計画されたが、多額の費用がネックになって実現しなかったという。そもそもベテランズ・デーは第一次世界大戦休戦記念(1918年11月11日)を祝う日であり、2018年は100年目だった。

今回は、2018年当時よりも財政状況が悪化しているにもかかわらず、トランプ大統領自身は、パレードを実施する価値に比べるとその費用はピーナッツ(Peanuts)、つまり、微々たる金額だと述べている。

トランプ大統領が就任して約140日間の誇る成果としては、イーロン・マスク氏にDOGEの陣頭指揮を取らせた政府機関の大幅なリストラや連邦職員の削減、対外援助の打ち切りなどといった一連の政府支出削減策が挙げられよう。ただ、自らの評判悪化やCEOを務める会社の企業価値の大幅減少といった犠牲を顧みずに取り組んできたイーロン・マスク氏からすれば、財政赤字削減の一助として捻出したお金がパレードに充てられるとしたら、堪ったものではないだろう。

あるいは、全世界に対する追加関税措置によって、4月以降、関税収入が急増していることから、パレード費用負担に目処がたったのかもしれない。もっとも、関税収入は、トランプ大統領が成立を目指す過去最大規模の減税法案The One, Big, Beautiful Bill(一つの大きく美しい法案)の財源の一つとして想定されているものの、現状の関税収入の規模は、トランプ大統領が主張する1日20億ドルには程遠い。しかも、各国とのディールの結果、追加関税率が引き下げられれば、当然ながら関税収入は減少しよう。輸入額が増えれば関税収入の目減り分を補えるかもしれないが、それでは、貿易赤字を解消するという当初の目的を達成できない。一方で、高関税の影響で景気が悪化すると、輸入額が減少し貿易赤字の縮小につながるだろうが、同時に関税収入の増加は期待できない。

このように、過度に関税収入に依存するトランプ大統領の財政政策は自己矛盾を抱えているといえよう。トランプ大統領がいうところの“big, beautiful(大規模で美しい)”軍事パレードを終えた後、届いた請求書を見てピーナッツだと言い張れるのか、それとも青ざめることになるのか。

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近藤 智也
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政策調査部

政策調査部長 近藤 智也