25年度予算成立後も高まる財政膨張圧力

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2025年04月04日

国の2025年度予算が3月31日に成立した。当初予算としては過去最大だ。与野党での修正協議を経て、「年収103万円の壁」引き上げや高校授業料の無償化などが盛り込まれたが、政府予算案からは0.3兆円強圧縮された。

石破茂政権が少数与党の下で予算を成立させるためには、野党の協力が欠かせない。これまで与党主導で決まっていた予算が、野党の政策を含めて審議されたのは望ましいことだ。しかし高校授業料の無償化では、所得制限撤廃の必要性などについて十分に議論されなかった印象を受ける。また、本来は自然災害など不測の事態に対応するための一般予備費が減額され、実質的に追加歳出の財源として付け替えられたことは問題だ。

石破政権が誕生して初めて公表された25年1月の政府の財政試算によると、23年度で12兆円程度の赤字だった国・地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)は26年度に黒字化し、潜在成長率が過去の実績並みに低いケースでも32年度まで黒字を維持する見通しだ。政府が25年度の達成を目指しているPB黒字化の時期は1年遅れるが、自然体の取り組みを続けても、財政健全化は着実に進むようにみえる。

だが現実を踏まえると、依然としてPB黒字化を見通せる状況にはない。政府の財政試算では、コロナ禍以降に常態化した大型の補正予算編成を想定していないが、25年度以降も与野党の政策を取り込む形で大型の補正予算編成は続きそうだ。また、与党と国民民主党が合意したガソリン税の暫定税率廃止で1.5兆円程度の税収減が見込まれる。政府は26年度から始まる国土強靱化の次期5カ年計画の事業規模を20兆円強とし、現計画の同15兆円程度から増額する方針だ。23年度から段階的に増額されている防衛費は、米トランプ政権からの要請を受けて一段と増額される可能性がある。

日本銀行(日銀)が金融政策の正常化を進める中で、金利上昇を通じた政府の利払い費の増加にも注意を払う必要がある。日銀の取り組みに歩調を合わせて政府が財政健全化を進めなければ、金利が想定以上に上振れする可能性も否定できない。仮にそうなれば、政府債務残高対GDP比の安定的な引き下げに必要なPBの黒字幅は拡大することになる。

欧米では、経済政策を立案する際には並行して財源を議論することが一般的だ。これに対して日本では、与野党ともに歳出増や減税に関心が集まり、財源の議論は置き去りにされやすい。政府はトランプ政権の政策や国内の物価高騰などに柔軟に対応しつつ、真に困っている家計や企業に絞って支援を行うなど財政政策にメリハリを利かせ、少子化や防衛、教育などの恒久的な歳出増に伴う安定財源の確保などの議論を進める必要がある。

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神田 慶司
執筆者紹介

経済調査部

シニアエコノミスト 神田 慶司