2025年、日本経済の課題 ~石破政権はどこに向かうのか?~

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2024年12月27日

  • 調査本部 副理事長 兼 専務取締役 調査本部長 チーフエコノミスト 熊谷 亮丸

2025年は日本経済が、過去30年程度続いてきた「コストカット型経済」から脱却して「賃上げと設備投資がけん引する新しい成長型経済」へと移行できるか否かの歴史的な分岐点になろう。

石破政権には、目玉政策である地方創生や防災庁の設置などはしっかりと推進していただきたいが、経済政策の骨格においては、岸田政権の経済政策の継承と発展に取り組んでほしい。

岸田政権は約3年にわたり日本経済の様々な課題に取り組み、一定の方向性を示した。2024年の春闘では33年ぶりの賃上げ率を達成し、名目GDP(国内総生産)は年率換算で600兆円を超えるなど、日本経済をデフレ脱却まであと一歩のところまで拡大させた。また、①成長と分配の好循環を目指す「新しい資本主義」の推進、②こども未来戦略「加速化プラン」の策定、③「資産所得倍増プラン」の策定、④経済安全保障の強化、⑤原発の再稼働やGⅩ(グリーントランスフォーメーション)などを含むエネルギー政策の転換、⑥DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進、⑦最低賃金の大幅な引き上げといった、数々の実績を残した。

とはいえ、日本経済の再生はまだ道半ばだ。これから、賃上げと投資がけん引するような成長型の経済を定着させていかなくてはならない。実質賃金が持続的に上昇していくか否かが大きなポイントで、労働生産性の向上や価格転嫁対策の強化などが必要になる。

「成長か?分配か?」という民主党政権時代から続く不毛な二元論がある。野党は圧倒的に分配にウェートを置いているものの、重要なのは成長と分配の二兎を追うことだ。

具体的に、石破総理が取り組むべき課題は、以下の6点である。

第一に、継続的な賃上げを実現するためには、労働生産性を引き上げることが喫緊の課題だ。そのためには、①企業の新陳代謝を促すことで、供給過多から企業が値下げ競争に陥っている現状を是正、②「失業なき労働移動」を進めて、経営者が好況期に社員の賃金を安心して引き上げられる環境を整備、③人的資本を中心とする無形資産投資を促進して、労働者の「エンプロイアビリティ(雇用され得る能力)」を向上、④GX、DX、規制改革、スタートアップの増加などを通じて、企業の成長期待を高める、⑤外国人高度人材の活用や女性のさらなる活躍を推進して、ダイバーシティ(多様性)を高め、イノベーション(技術革新)を起きやすくする、⑥コーポレート・ガバナンス(企業統治)を強化といった施策を同時並行的に講じるべきだ。

第二に、労働市場改革に正面から取り組む必要がある。成長戦略という観点からも、労働市場改革こそが日本経済の「宝の山」である。岸田政権が推進した「三位一体の労働市場改革(=①リ・スキリングによる能力向上支援、②個々の企業の実態に応じたジョブ型人事(職務給)の導入、③成長分野への労働移動の円滑化)」に加えて、「年収の壁」の解消が実現し、「不本意非正規」や「L字カーブ」の解消も進めば、労働投入量が大幅に増加することが期待できる。大和総研の試算では、これらの政策効果がフルに発現すれば、わが国の潜在GDPが最大12%(約70兆円)程度押し上げられる可能性がある。

第三に、成長戦略の柱として、GXやDXを推進することに加えて、医療・教育分野、エネルギー分野、「ライドシェア(自動車の相乗り)」等を中心に、成長戦略の「一丁目一番地」である規制改革には、引き続きしっかりと取り組むべきだ。

第四に、全世代型社会保障改革を加速してほしい。「人生100年時代」なので、負担能力のある高齢者には支え手に回っていただき、医療提供体制の改革や社会保障給付の効率化などを通じて、現役世代の負担増を抑える一方で、勤労者皆保険の実現や少子化対策の強化などに取り組む必要がある。

第五に、国民に適正な負担を求めることを正面から訴え、財政健全化を図るべきだ。近年の財政運営に関しては、「受益(歳出)の拡大を先行させて、負担増(財源確保)については先送りしてきた」と批判する向きがある。

第六に、「資産所得倍増プラン」を含む「資産運用立国」の実現に向けた施策を継続することが肝要である。2024年には、非課税投資枠の拡大や投資期間の無期限化などを柱とする「新NISA制度」がスタートした。わが国では、長年の課題であった「貯蓄から投資へ」という資金シフトの実現に向けた期待感が非常に高まっている。

筆者は、2025年にこれらの経済政策がより一層進展することにより、日本経済が「コストカット型経済」から脱却して「賃上げと設備投資がけん引する新しい成長型経済」へと移行することを心から期待している。

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熊谷 亮丸
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