家計所得の拡大を好循環につなげるには資産形成の高度化と社会保障改革が必要
2026年06月08日
毎年の賃上げが定着しつつあるなど、家計をとりまく環境が大きく変化している。内閣府が公表している国民経済計算を用いて、この間の家計の状況を確認してみたい。
まず、リーマン・ショック後の2010年度に252.2兆円だった雇用者報酬は、2024年度に314.2兆円まで増えた(62.0兆円の増加)。雇用者1人当たりでも、446万円から506万円に増えた(60万円の増加)。ただ、雇用者報酬には雇主が負担する社会保険料が含まれている。同じ期間にそれが13.1兆円増えており、それを除いた賃金ベースでは48.8兆円(1人当たり45万円)の増加にとどまる。医療保険や介護保険の改革を進めて、社会保険料の増え方を抑える必要がある。
家計は労働だけでなく、貯蓄(金融資産形成)を通じて資本を経済に提供している。労働からのリターンが賃金であるのに対し、貯蓄からのリターンは利子や配当等である。受取利子は低金利を反映して直近四半世紀は年間3~8兆円程度(2024年度は6.5兆円)だ。1990年代初頭には優に20兆円を超えていたから隔世の感がある。他方、受取配当は2000年代初頭までは2兆円未満だったが、2024年度には10.2兆円まで増えた。
賃金や企業収益の増え方との対比で、配当の増え方が大きすぎるという批判が一部にある。だが、そもそも発射台が低かったのだから増え方が大きく見えるのは当然である。10.2兆円とは雇用者報酬314.2兆円と対比すれば3.3%の大きさだが、米商務省統計によれば米国家計のこの比率は14~15%程度である。日本の家計における株式等からの配当受け取りが、ようやく常識的なレベルに向かい始めた段階と捉えるのが正当だろう。
家計が持つ株式の保有利得・損失(キャピタルゲイン・ロスに相当)は、2022年は▲15.2兆円、2023年+57.9兆円、2024年+20.4兆円となっている。足下の株価上昇の恩恵はより大きなものとなっているだろう。5月25日に公表した当社の日本経済予測では、預貯金や年金・保険を含む家計金融資産全体からのリターンが、2040年度には196兆円程度まで拡大する可能性があると議論している。家計が所得を得るチャネルとして、雇用者報酬だけでなく、資産所得も太くしていくことが望まれる。
家計は、労働市場と金融資本市場を通じて分配された所得から税と保険料を支払い、可処分所得を得る。家計の所得税などの直接税負担は2024年度に35.1兆円となり、2010年度から10.3兆円増えた。より大きいのは社会保険料で、2010年度から14.2兆円増え、44.5兆円に達している(上述の雇主負担分の保険料を含まない本人負担分)。
その一方で、年金や医療・介護、生活保護など、現金と現物とで家計が受け取る社会保障給付や社会扶助給付は同じ期間に26.2兆円増え、税・保険料の負担増分を上回る(2024年度の給付総額は130.3兆円)。この中には超高齢化によって必要な給付がもちろん含まれるが、医療や介護の提供体制や需要構造には改革を進める余地も小さくない。
医療費や介護費も消費ではあるが、その領域が産業の牽引役にはなりにくい。また、経済全体として医療費や介護費で所得を必要以上に費消すれば、貯蓄の余力がなくなり、資本不足を招いて経済成長に長期的な悪影響を及ぼしかねない。経済の好転を家計の可処分所得の拡大と、自由な消費と貯蓄への配分にできる限りつなげるには、やはり社会保障改革が避けられない。
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