2025年度のPB赤字はほぼ確定か

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2024年12月20日

政府は2024年11月に「国民の安心・安全と持続的な成長に向けた総合経済対策」を閣議決定した。それを受けて、国会では12月に2024年度の補正予算が成立した。経済対策の財政支出は21.9兆円程度、補正予算の歳出規模は一般会計ベースで13.9兆円と巨額である。

気になるのは財政への影響だ。政府は2025年度の基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)の黒字化目標を掲げている。2024年7月29日に公表された内閣府「中長期の経済財政に関する試算」(以下、内閣府試算)では、2025年度のPBは0.8兆円の黒字が見込まれていた(復旧・復興対策及びGX対策の経費及び財源の金額を除いたベース)。

そこで、今回の経済対策と補正予算が2025年度のPB見通しに与える影響について、一定の前提を置いて計算してみよう。

経済対策の財政支出21.9兆円のうち、国の歳出は15.9兆円(一般会計、特別会計、財政投融資の合計)である。この中で、出資金・貸付金などの金融取引や既存予算の組み換えを除いた歳出がPBに影響を与え、その金額は14.7兆円程度とみられる。

国以外の歳出6.0兆円の内訳は分からないが、ここでは地方の歳出と既存予算の組み換えが3兆円ずつとしよう。地方の歳出もPBに影響を与えるが、既存予算の組み換えは影響しないと仮定する。

その結果、17.7兆円程度がPB対象の経費となる。これが1年3カ月程度かけて執行されるとすると(内閣府試算を参考に想定)、2025年度には14.2兆円程度PBが悪化する計算だ。

他方で、補正予算では税収上振れというPBの改善要因もある。国の税収は当初予算の69.6兆円から3.8兆円上振れし、73.4兆円となる見込みだ。定額減税2.3兆円(国税分)の影響を除いたベースでは、2024年度の税収見込み額は75.7兆円となる。

2025年度の税収はどうなるか。名目成長率を大和総研では2.9%を見込んでいる。財務省「令和6年度予算の後年度歳出・歳入への影響試算」に基づき税収弾性値を1.1として計算すると、2025年度の税収は78.1兆円となる(2024年度税収75.7×(1+2.9%×1.1))。これは内閣府試算が見込む76.8兆円より1.3兆円多い(1.7%上振れ)。
地方税も国と同じく内閣府試算から1.7%上振れすると仮定した。地方税収は51.1兆円となり、内閣府試算より0.9兆円多くなる。国・地方合わせて2.2兆円の上振れだ。

PBは差し引き12.0兆円程度(=2.2兆円-14.2兆円程度)悪化する。7月の内閣府試算で0.8兆円の黒字が見込まれていたPBは、11.2兆円程度の赤字となり、2025年度のPB黒字化目標は未達となろう(図表)。

もちろん、これは一定の前提に基づいた試算であり、経済対策の執行のタイミングや地方の歳出の状況によって変わり得る。しかし、そうであっても今回の経済対策は大幅なPB悪化をもたらすことは確かだ。

加えて、「年収103万円の壁」の引き上げ、ガソリンの暫定税率廃止などの税収減によるPB悪化要因が検討されている。防衛増税の導入も早くて2026年度からだ。2025年度のPB黒字化は極めて困難だろう。

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執筆者紹介

経済調査部

シニアエコノミスト 末吉 孝行