ヘルステック×データサイエンスによるウェルビーイングの実現に向けたAI開発の取り組み

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2024年12月19日

  • データドリブンサイエンス部 チーフグレード 參木 裕之

ウェルビーイング(Well-being)とは「身体だけではなく、精神面、社会面も含めた健康」と世界保健機関(WHO)では紹介され、幸福度として測定する研究も進んでいる。また、昨今、「健康(ヘルス)」と「技術(テクノロジー)」を組み合わせたヘルステック分野が着目されており、その中でウェルビーイングが語られることも少なくない。ヘルステック分野は人的資本経営を含む広範な領域を包含しており、多様なプレイヤーが参画している。こうした状況下において、外的要因の変化としては、2015年にデータヘルス計画が義務化され、健康保険組合と企業の連携による取り組みが進行しつつあること、2023年から人的資本に関する情報開示が義務化されたことなどが挙げらる。これにより、企業には人的資本経営および健康経営への取り組みが一層求められるようになってきている。

大和総研は、企業内のヘルスケアデータを活用することに関心の高いクライアント企業に恵まれている。企業や従業員のウェルビーイングの実現に向けて、企業内の豊富なデータに対してデータサイエンス技術を活用して新しいヘルスケア関連ソリューションおよびビジネスを研究開発することを目的とした専門チームを編成している。私が所属するウェルビーイングアナリティクスチームでは、主に以下の内容に取り組んでいる。

  • 従業員の健康増進や疾病予防に向けたAIソリューションの開発
  • 企業の健康経営および人的資本経営の高度化を支援するためのAIソリューションの開発
  • 新しい価値を含んだリアルワールドデータ(新しいデータプロダクト)の開発およびビジネス化の検討
  • 上記の業務に関連する研究活動(共同研究、学会視察、レポートや論文の外部発信)

最新のテクノロジーを迅速に取り入れながら、基礎研究よりも応用研究に重点を置き、具体的なクライアント企業や社会の課題を解決する新たなAIソリューションの調査・企画・研究・開発・ビジネス実装およびプロダクト化を推進することを、重要なミッションとし、チーム一丸となって取り組んでいる。

具体的な取り組みとしては、生成AIを活用した高度なデータ分析技術と、コンサルタントの持つ人的資本経営および開示に関する専門知識を融合し、企業の開示情報から人的資本や健康経営などの各種開示フレームワークに沿った情報を抽出し、高度な比較分析および検索機能を提供する技術を開発した。この取り組みは、大和証券の人事部門や経営企画部門と連携して実施し、上場企業の人的資本情報開示および施策の実行を支援するウェブサービス、「KOSMO-ウェルビーイングナビ」(※1)として提供している。

健康経営では、従業員の健康目標や結果を企業の生産性向上と企業価値向上に繋げることが重要である。「プレゼンティーイズム」(出社しているが健康問題で生産性が低下している状態)は企業にとって大きなコストとなり、削減するためには、疾病発症予測だけでなく、労働生産性の損失推定がカギになる。これらを実現するためには、「コラボヘルス」(事業主企業と健康保険組合などが連携して加入者の健康増進に向けた取り組みを効果的に行うこと)の推進体制が必要になってくる。また、健康診断・レセプトデータに限らず人事データも揃える必要があり、これらのデータ利活用には、経済産業省の健康経営ガイドブックにも記載があるように、企業と健康保険組合がそれぞれで既に持っているデータを掛け合わせることが重要であると考えている。

当社のウェルビーイングアナリティクスチームでは当社の企画・営業部門や企業の人事担当部門などと連携し、組織がコラボヘルスを推進するためのデータ分析コンサルティングやプロダクト開発を進めており、分析や業務ドメイン知識のナレッジやノウハウの蓄積とともに、ビジネス力×データサイエンス力×データエンジニアリング力のバランスを大事にした体制も整っている。ローマは一日にして成らず、まだ見ぬ世界へどれだけ進めるか、想像するとわくわくする。

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參木 裕之
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データドリブンサイエンス部

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