2024年12月18日
就職活動は、長きにわたり学業を圧迫してきた歴史があるようだ。
「就職協定」の成立は、戦後間もない1953年までさかのぼる。戦後に景気が上向き、人材獲得競争の激化から企業が青田買いを始めたことで、学業を阻害する採用選考の早期化が問題となり就職協定が成立した。だが、高度経済成長期の到来とともに再び企業の採用熱が活発化すると、就職協定は水面下で破られ、1996年に廃止された。その後、就職氷河期を経て再び売り手市場になると、改めて学業阻害を理由に就活期間短縮の要請があり、「採用選考に関する指針」が策定されたものの、2018年には経団連が指針の形骸化を理由に「指針を策定しない」ことを発表。2021年以降は政府が経団連に代わり就活ルールを策定し、現在に至っている 。
このように、就活ルールは策定と形骸化を繰り返す歴史を辿ってきた。経団連加盟企業しかルールを遵守しなかったことに加え、違反した加盟企業に対して罰則がなかったことも要因だろう。現在も、政府が策定した上記就活ルールは有効だが、外資系企業やベンチャー企業を筆頭に通年採用が増加し、採用活動の早期化と長期化が進んでいる。
こうした状況から、現在も「学業か、就活か」の悩みに直面している学生は多い。さらに、奨学金返済や物価高騰に伴うアルバイトの必要性も増し、時間に追われる日々だ。教育界と経済界が妥協点を見出す綱引きに終始してきた過去のあり方ではなく、新たな枠組みの構築を目指すべきだろう。
この問題の解決策のひとつに、インターンシップがある。日本では2000年頃から大学のキャリア教育としてスタートしたが、2010年代に入ってからは採用活動の一環としての短期インターンシップが急速に普及した。「1dayインターンシップ」などの名称で開催されたものの、実態は会社説明会に近いものも多く、名ばかりインターンシップと問題視され始めた。このような企業の動きもあり、文部科学省・厚生労働省・経済産業省の三省による「インターンシップの推進に当たっての基本的考え方」は幾度となく改正されている。2022年の最新の改正 では、5日以上のものを「インターンシップ」と称し、短期のものは「オープンカンパニー」に変更となった。
このように、インターンシップは教育界と経済界の綱引きの再来となってはいるものの、インターンシップの参加によって単位が取得できる大学のカリキュラムは増え、インターンシップ参加科目が選択必修となっている大学もあり、キャリア教育は着実に根付いてきている。
また、キャリア教育とは別軸の発展形として、給与が払われる長期インターンシップも拡がっている。人手不足を背景に、アルバイト募集に類似した、長期インターンシップ専用の媒体が登場している。アルバイトとの違いは、正社員同様の業務を任せる点にある。例えば、商談を行う営業職や、Web広告企画、SNSアカウント運用などだ。アルバイトより一段上の経験と成長を得たい学生は多く、企業側にも学生の視点を生かせるメリットがあり、「インターンシップ」という言葉を使った「難易度の高いアルバイト募集」の媒体は活況だ。
現在の大学生は、キャリア教育を小学生から受けている世代である。「自分らしさを大切にし、どのように生きるか」という軸を意識し、就職活動を通して、親の経済的庇護から脱した後の「社会の中での自分の居場所」を模索しているように思う。人生という線上の点と点である「大学での学び」と「就職」が分断されるものではないという意識は、旧世代より高いだろう。
現状、インターンシップという枠組みは発展途上であり、「インターンシップ」という語の定義すら曖昧である。今後は「大学での学び」と「キャリアのスタート」を地続きで繋げる社会的な枠組みとしてインターンシップが根付き、「授業に出るべきか、就活をすべきか」という長年の学生の悩みを解決する役割を果たすことを期待している。
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- 執筆者紹介
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コーポレート・アドバイザリー部
コンサルタント 大泉 幸子
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