中国:「夜騎軍」と独身の日のネットセールの不振に思うこと
2024年12月16日
乾隆帝ゆかりの焼売店「都一処」と、スープ入り小籠包の「第一楼」(河南省開封市に本店があり、かつて北京市の前門大街に支店があった)。筆者の北京駐在時代、「庶民的で美味しい店」をリクエストされた際にヘビーローテーションをした店だ。11月に話題になったのは後者の開封灌湯小籠包子である。2024年6月、河南省鄭州市の大学生がこの小籠包を食べるために、50㎞~60㎞離れた開封市まで一晩かけて自転車で走行した。これがSNS上で大きな話題となり、11月8日には数十万人とされる人々が夜間に同じルートをたどり、4車線道路を埋め尽くしたのだという。一部で「夜騎軍」と呼ばれるこの映像をテレビなどでご覧になった方も多いだろう。
そこには、将来の不安に怯え、節約志向を高める若者が、夜間に自転車で疾走し、鬱憤を晴らす姿があったように思う。
そして数日後の11月11日は独身の日のネットセールの最終日だった。中国のデータシンクタンク「星図データ」の推計によると、2024年10月14日から11月11日の独身の日までのネットセールは、前年のセール期間比26.6%増の1兆4,418億元(約30兆円)となった。好調だったと早合点してはいけない。セール期間は2023年の10月31日~11月11日までの12日間から、2024年は29日間へと長期化し、1日当たり売上ではほぼ半減した。しかも、現地報道によれば、一定額以上の購入を条件としたキャッシュバックを利用した後の返品の多さが問題になるなど、売上データは相当割り引いてみる必要がある。独身の日の売上は2022年以降、停滞が続いているとみるべきだろう。
コロナ禍以前の中国では11月11日の独身の日と、eコマース業界最大手のJD.comの創業記念日である6月18日の2大ネットセール期間中に、日用品や嗜好品を爆買いすることが風物詩となっていた。当時、筆者は「大安売りが行われるネットセールでの購入が増えれば増えるほど、セール期間以外の購入が抑制され、消費全体の下押し要因になりかねない」と分析をしていたが、これは杞憂だった。いずれにせよ、かつてのお祭り騒ぎは完全に過去のものになった。
中国の消費は「ダウングレード」が急速に進んでいる。キーワードは「低価格」、「節約」だが、いくら安くても必要以上には買わない。身の丈消費である。こうした状況はまだ当面続く見通しだ。
根本的な処方箋は、いうまでもなく雇用の改善と所得の増加である。「国進民退」(政策の恩恵が国有企業に集中し、民営企業には悪影響が出ることがある)に苦しむ民営企業、中でも、高失業率に喘ぐ若年層の雇用吸収力が大きい新興分野の民営企業を如何にして活性化させていくのか。民営企業重視、そして規制強化から規制緩和への大転換が求められることは明らかだ。こうした自明の政策が2025年に実施されるのかに、注目している。
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経済調査部
経済調査部長 齋藤 尚登
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