2024年08月21日
私事であるが、先日、会社から長期勤続の表彰を受けた。従業員の1人として、ここまで長く働き続けたことに誇りと喜びを感じ、これからも引き続き頑張らなければと、改めて気持ちを引き締めることができた。この制度は、長期勤続を促すリテンション(繋ぎ止め)効果をもたらし、従業員エンゲージメントを高める制度として、弊社に限らず多くの企業で導入されている。
筆者が就職した1990年代中頃、多くの日本企業はバブル崩壊から立ち直るべく、従来の日本型経営の根底にあった「終身雇用・長期勤続優遇(年功序列)」の見直しに着手した。成果主義の導入や雇用の流動化を積極的に推し進めることで、バブル期に膨らんだ従業員の削減に取り組んでいた。当時は、従業員というコストをカットすることが、経営の重要課題として位置付けられていたのである。
あれから30年という時間が経過し、状況は大きく変わった。従業員はコストではなく経営の重要な資本とみなす人的資本経営の考え方が当たり前の時代になった。企業価値向上のためには、従業員のモチベーションを高め、最大のパフォーマンスを発揮できる環境を構築していく必要がある。また、従業員の価値観が多様化する中、自社の目指す方向性が自分自身の価値観と一致しないと判断した従業員は、躊躇なく退職していく。従業員の退職は経営資本の弱化に繋がるため、これを防ぐリテンション施策も講じなければならない。まさに、従業員に対する投資が、経営の重要課題として位置付けられるようになってきたと言えよう。
このように、社会環境や従業員の価値観が刻一刻と変化していく状況下において、従来の手法や考え方のみでは、このあらゆる変化をキャッチアップしていくことは容易でない。ただ、現在では、退職者の傾向分析、ハイパフォーマーの行動分析、従業員エンゲージメント調査等、統計学的手法を用いた人事データ分析により、社会環境や従業員の価値観の変化をタイムリーに把握することが可能になっている。この客観的な分析に、自社独自の視点である企業文化を加えることによって導き出される施策が、従業員に対する真に意味のある投資になるのではないか。また変化の激しい時代において、分析内容や手法もその時々で見直していくことも忘れてはならない。
今年の新入社員もそろそろ会社に慣れてきた頃だ。これから20年後、30年後に、どういった社会になっているか、またどんな人事施策が従業員に受け入れられているか、今から楽しみにしている。
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- 執筆者紹介
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データアナリティクス部
主席コンサルタント 市川 貴規
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