2021年07月01日
筆者は、これまでも何度かソフト・ロー(例えば、コーポレートガバナンス・コード(CGコード)などのように強い拘束力を持たない規範)とハード・ロー(法令のように強い拘束力を伴う規範)の関係について論じてきた。筆者の主張を要約すれば、次のようになる。
ソフト・ローは、ハード・ローと比べて、形式よりも実質、画一性よりも柔軟性を重んじた規律付けを行うことができる。そして何よりも、罰則などでゴリゴリと強制してくる印象の強い「ハード・ロー」と違って、「ソフト・ロー」という響き自体が、スマート、かつ、エレガントな印象を与える。
とはいえ、ソフト・ローによる規律は「人を選ぶ」。つまり、ソフト・ローは、それが適切に機能するためには、その対象者に「ペナルティが怖いから規律を守る」のではなく、「ペナルティの有無を問わず、規律を守るのは当たり前」という規範意識を求める。言い換えれば、ある種のノブレス・オブリージュを意識した「大人」を対象とした規律なのだ。
筆者のこうした考え方そのものは、現在も変わっていない。ただ、ソフト・ローというスマート、かつ、エレガントな規律を機能させるためには、規制の対象者のみならず、社会全体がこれを尊重する姿勢を示す必要があるのではないか、と考えるようになった。
例えば、「〇〇するべし」との規律がソフト・ローで求められたとしよう。しかし、そのソフト・ローが適用されるのと並行して、ハード・ローでも同様の規律が導入されたとする。この場合、果たして規律の対象者は、どのように行動するだろうか?おそらく、ソフト・ローへの対応に一生懸命に取り組むよりも、ハード・ローへの対応こそが大事と、これを第一に進めようとするのが普通ではないだろうか。確かに、罰則などのペナルティの回避を優先的に考えて行動することは、ある意味で合理的であると言えよう。ハード・ローによる規律が、こうした人々の行動を意図したものであることもわかる。しかし、この場合、ソフト・ローの存在意義は何なのだろうか?
実は、この問題は、私たちの目の前で起こりつつあるのだ。
2021年6月11日のCGコード改訂(ソフト・ロー)により、サステナビリティへの取組みの開示に関する規定が追加されたことは記憶に新しい。ところがその2週間後の2021年6月25日、第46回金融審議会総会・第34回金融分科会合同会合が開催され、金融担当大臣から「企業情報の開示のあり方に関する検討」について諮問が行われた。これを受けて、今後、サステナビリティ情報の有価証券報告書等を通じた法令(ハード・ロー)に基づく開示(法定開示)が議論される見通しである。
世界的にサステナビリティ情報の法定開示に向けた動きがあり、わが国としてもこれに無関心ではいられない、という事情は理解する。しかし、同じサステナビリティ情報についてCGコードに基づく開示と法定開示が重複するのであれば、両者の役割分担を整理することが必要だと筆者は考える。せっかく、定着しつつあるCGコードというソフト・ローがその存在意義を失わないためにも、関係者がこれを尊重する姿勢を示すことを期待したい。
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